東日本大震災から5年が過ぎた岩手県陸前高田市では、市街地での地盤のかさ上げ工事と郊外の高台での宅地造成工事が今も続けられているが、計画は遅れがちだ。事業再建を目指す商店主も、ついのすみかを求める人々も、先の見えない不安な日々を送る。(矢野宏/新聞うずみ火)
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最大で高さ12メートルのかさ上げ工事が進む陸前高田の市街地(うずみ火)
最大で高さ12メートルのかさ上げ工事が進む陸前高田の市街地(うずみ火)

 

進まぬ復興に住民流出

陸前高田市出身のジャーナリスト、佐藤竜一さん(57)とともに市街地をめぐる。ここでは車のナビがまったく役に立たない。指示された先に道はなく、ピラミッドのような盛り土に阻まれる。

陸前高田は震災で8069世帯のうち半分の4063世帯が家を失った。災害復興住宅は11地区に895戸が計画されているが、3月1日現在で完成しているのは5地区415戸。今も1263世帯が仮設住宅で暮らしている。5年たっても、ついのすみかに移れない人は多い。

街をどう復興させるのか。市は11年12月、山を切り崩した高台に住宅地を建設し、発生した掘削土で最大12メートルかさ上げして宅地を含む中心市街地を整備する復興計画を示した。完成は19年3月。家を建てるのはその後だ。待ち切れない住民たちが自主再建の道を選ぶなど、定住希望者は目減りし続けている。

進まぬ復興は、商店主たちにとって死活問題だ。被災した600の事業者のうち営業を再開できたのは半分の332事業者。その一つ、ジャズ喫茶「ジョニー」を訪ねた。

市街地から3キロ離れた国道沿いの高台へ。プレハブの仮設店舗の引き戸を開けると、ジャズのリズムとコーヒーの香りが漂ってきた。震災前、ジョニーは市の中心部にあった大きな2階建ての木造家屋で、7000枚近いレコードを飾り、ライブも行っていた。

店主の照井由紀子さん(62)は、一人暮らしになってから左耳の聴覚を失った。過度のストレスが原因だった。それでも毎日のように顔を出してくれる馴染みの客の支えもあって営業を続けることができた。

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