日本でも、「濫用」の果てに

日本も大日本帝国憲法に国家緊急権の規定があり、これが濫用された苦い過去がある。
「大日本帝国憲法の国家緊急権には『緊急勅令』『緊急財政処分』『戒厳』『非常大権』という四つの制度がありました。

『緊急勅令』は、緊急の必要があり議会閉会の場合、政府が法律に代わる勅令を制定することができるものでした。しかし、政府は議会を軽視して平常時にも緊急勅令を乱発しました。例えば、治安維持法に死刑を設けた重罰化改正法案は議会で廃案になりましたが、政府は緊急勅令を発して法案通り改正したのです。

また、『戒厳』は国の統治作用のかなりの部分が軍事官憲に移ること。戦争や内乱などの非常時限定でしたが、脱法的に地震などの自然災害にも拡大されました。そのため、関東大震災では自警団を軍隊の下部組織にし、朝鮮人虐殺につながりました」

そして国家緊急権が濫用された結果、軍部が暴走し、太平洋戦争という「究極の緊急事態」を招いた。そして、国家は、国家を守るために人権を制限した。永井弁護士は、その象徴が「国家の存続のために捨て石にして、国家を守るために住民を犠牲にした沖縄戦」だと指摘する。

日本国憲法は、こうした苦い教訓から、あえて国家緊急権を設けなかった。GHQは「設けるべき」だと主張したが、日本側は、民主主義と立憲主義などをタテに、「不要」の立場を貫いたという。

次のページ:災害に必要なのか…

★新着記事