災害に必要なのか
それから約70年。国家緊急権をなぜ復活させようとするのか。例えば、安倍首相は今年1月19日の参院予算委員会で、こう述べている。「大規模な災害が発生したような緊急時において国民の安全を守るため、国家そして国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置付けるかは極めて重く、大切な課題と考えている」
しかし、永井弁護士は「災害対策のために緊急事態条項は必要ない」と断言する。
「日本では、災害時に十分対応できる制度が個別法によって制定されています。災害対策の原則は『事前に準備していないことはできない』ということ。東日本大震災では、国や自治体が迅速かつ適切な対策ができなかった例がありますが、それは法律や制度の適正な運用による事前の準備がなかったことが原因です。国家緊急権は非常事態が発生した時、いわば泥縄式に強力な権力で対処する制度。想定していない事態に対しては、いかなる強大な権力をもってしても対処できません」
永井弁護士は1995年の阪神淡路大震災で神戸市内の事務所が全壊。以来、一貫して災害関連法制に携わってきたエキスパートだ。日弁連の災害復興支援委員会前委員長で、東日本大震災の被災地に通い、助言を続けている。
ちなみに、日本国憲法は災害について何も規定していないのではない。緊急時に衆院議員が不在でも参議院で緊急集会の開催を可能とする「参議院の緊急集会」などの制度を規定しているという。
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