自民党が改憲の突破口として導入を目指している「国家緊急権」=「緊急事態条項」。 「大規模災害に対応するため」としているが、「災害を改憲のダシにするな」とすでに被災地からは非難の声が上がり、東北の被災3県、阪神大震災を体験した兵庫県、新潟中越地震の新潟県を含む17弁護士会が、緊急事態条項創設反対の声明を出している。『憲法に緊急事態条項は必要か』(岩波ブックレット)の近著がある永井幸寿弁護士(兵庫弁護士会)にこの条項の問題点を指摘してもらった。(栗原佳子/新聞うずみ火) <緊急事態条項>(上)へ
◆戒厳令制定も可能
自民党案の「緊急事態条項」はどのようなものなのか。武力攻撃や内乱、大規模な自然災害、その他法律で定める緊急事態において、内閣総理大臣が閣議で緊急事態を宣言することや、内閣が法律と同一の効力を持つ政令が指定できることなどが明記されている。「国民は国その他公の機関の指示に従わねばならない」という記述もある。
「いろいろ問題があるのですが、まず緊急事態の発動の要件を法律で定めることができるということが一つ。後で、国会の過半数の決議でいくらでも拡大できます。テロや大規模な労働争議、デモなども、国家の緊急事態だとして加えていけます。緊急事態の期間も書かれていません。
内閣は法律と同等の効力を有する政令を制定できるとありますが、『国会が機能しないとき』などの要件もありません。つまり国会の会期中でもできるということで、国会は消滅したも同じです。事後に国会の承認が必要とありますが、承認が得られない場合どうなるかは書いてありません。大日本帝国憲法ですら、『事後に議会の承認を得られない場合は将来に向かって効力を失う』という規定がありました。
政令で規定できる対象に制限もありません。全ての人権を制限でき、全ての事項について政令を制定できます。戒厳令制定も可能です」
災害時に戒厳が実施され、自衛隊が被災者救助ではなく暴動の抑止、治安の悪化防止などの目的で治安出動を行うこともありうるという。
永井弁護士はこう警告する。
「ナチスの場合は第1段階として国家緊急権を使って反対党員を拘束、第2段階で全権委任法を強行採決して独裁を確立しました。ところが、自民党の改憲草案には全権委任条項が入っている。国家緊急権を憲法に創設して緊急事態を宣言すれば、独裁が成立する。ナチスと同じというのは間違いで、ナチスよりひどいのです」
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