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国営バスの停留所には常に黒山の人だかりができており、バスが停まると、とうてい乗り切れないほど大勢の人が殺到する。理由は運賃が安いためでもあるが、運行時間がまったく守られておらず、一本逃すと次のバスがいつくるか分からないから、といった事情もある。
撮影した取材協力者によれば、「国が運営するバスは、運賃は安いが本数が極端に少ない。車内では人の上に人が何重にも折り重なっていて、窒息死する人が出ることもある」という。
港湾都市の咸鏡北道清津(チョンジン)に住む取材協力者は、市内の公共交通手段の現状について次のように語った。
「清津市内の主な公共交通手段はトロリーバスで、運賃の国定価格は五ウォンです。安さにひかれて大勢の人が殺到するので、なかなか乗ることができません。本来は降口である前方ドアからならば楽に乗れるのですが、そのためには運転手への賄賂として1000ウォンが必要になります」
ひとつのバスで、ドアごとに違うふたつの運賃が存在するというのは、世界でも北朝鮮だけで見られる現象だろう。
国内で、市内交通が最も発達しているはずの平壌でも、事情は同様である。停留所には常に人があふれ、一部の人々はバスが来るやいなや、運転手にタバコ数本、あるいは数百ウォンを渡して、前方ドアから乗せてもらえるよう交渉する。交渉が成立すれば、バスの前方ドアから楽に乗ることができるが、それにもコツがある。
不用意に前方ドアを開ければ、バスに乗りきれない人々が殺到し、後方ドアと変わらぬ大混乱が生まれるからだ。それを避けるために、バスの運転手は停留所から少し離れた場所で前方ドアを開け、タバコやお金をくれた乗客を乗せるのが普通だ。
そうした客はまた、バス停を降りる際にも運転手から便宜を得られる。運行コース上であれば停留所のあるなしに関係なく、自分に都合のよい場所でバスを停めてもらえるのだ。
こうした現象が平壌でもあまりに当たり前になってしまったために、日頃同一路線を頻繁に利用する人の中には、その路線でハンドルを握るすべての運転手にあらかじめ賄賂を与え、あたかもマイカーのように利用するケースさえ見られるという。
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