◆急速に整備が進む「稼ぎバス」交通網
現在の北朝鮮において市場経済が急速に発達・拡大していることは、本誌で繰り返し述べてきたとおりだ。食糧から日用雑貨、電化製品、工業材料、セメント、肥料から油まで、ありとあらゆる品物が商売人の手で全国津々浦々に運ばれるようになった。
つまりそれは、人とモノの移動の需要もどんどん膨張してきたことを意味するのだが、立ち遅れた既存の国営交通網が、そうした需要にまったく応えられていないのは言うまでもない。
それに替わり、北朝鮮の交通において主役の座を占めつつあるのが、国の主導によらず自然発生的に生まれたバス交通網だ。
企業所や個人によって運営されているこうしたバス輸送は、現地では「稼ぎ(ポリ)バス」、あるいは「サービ車(チャ)」「サービバス」(由来はservice-carと言われる)などと呼ばれている。
このようなバス輸送が盛んに行われ始めた2000年代初頭には、運行は一定の秩序に従って組織化されてはいなかった。バスのオーナーは個人や各種の機関など様々で、それぞれが思い思いの場所で乗客を募るため、利用者にとっても自分の目的地へ行くバスを見つけるのが容易ではなく、交通秩序にも支障をもたらした。
それでも、需要は日に日に増大し、「稼ぎバス」は雨後の筍のように増え続けた。こうした事態を受け、現在では国が管理する駐車場(ターミナル)が設けられている。「稼ぎバス」は、国が指定する駐車場にバスを停め、国に対して駐車料金を納めなければならない。
こうしたバス交通の結節点として、とくに重要な位置にあるのが、平壌の北およそ30キロの地点にある平城(ピョンソン)市だ。平城は、大消費地平壌の「衛星都市」として、また中国と結ばれる交通ターミナルという地理的特性から、北朝鮮経済における物資流通の中心地となってきた。
北の新義州(シニジュ)と西の南浦(ナムポ)、南の沙里院(サリウォン)をはじめとする重要都市、そして東部地域とも道路網が整備されており、多くの商人たちが集まる街としても知られる。そのため、他の地域から乗り入れているバスも多い。
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