1-2北朝鮮は「脆弱国家」である
◆北朝鮮は国内紛争をしていない「脆弱国家」
北朝鮮政権は、全国土を掌握しているし武装勢力が活動しているわけでも、ましてや内戦や統治できない地域があるわけでもない。その点で、ソマリア、アフカガニスタン、チャド、シェラレオネ、イラク、リビア、シリアなどとは大きく異なるが、現体制は、国民の大半に対して充分な栄養、衛生、保健、飲料水など、重要な公共財を提供する能力を失っている。またその意志があるかも疑わしい。
電気供給も平壌の一部区域などを除いて、日常生活に必要な電力を提供出来ていない。軍兵士による略奪や強盗殺人の頻発が数多く報告されており、治安維持にも不安定化が見える。「人間の安全保障」が脅かされている状態にあると言える。
冷戦崩壊を期に、米ソによる統制の弛緩や、支援の減少ないし喪失などによって多くの国が「破綻国家」に転落し、内戦、紛争を引き起こしたことに触れたが、北朝鮮とて、ソ連をはじめとする社会主義圏からの支援の途絶による弱体化と、金日成の急死などのシステムショックによって、95-00年に甚大な社会パニックを引き起こし30万-300万とも言われる大量の死者を出す大混乱に陥っていたことを忘れてはならない。この時期、北朝鮮は、ほぼ「破綻国家」状態にあったのである。
北朝鮮をOECDや世界銀行の指標に当てはめて、先にあげた紛争国の劣悪なスコアと比較しても意味はないが、この10数年、北朝鮮はいくつかの国際機関や研究者の「脆弱国家」リストに出たり入ったりしている。
日本の独立行政法人国際協力機構(JICA)の研究所は、各種機関の調査をもとに主な「脆弱国家」35か国・地域を挙げている。その中の「紛争中、紛争後」でない「脆弱国家」9か国に北朝鮮を含めている(他は、ジンバブエ、ギニア、ミャンマー、パキスタン、トーゴ、カメルーン、モーリタニア、ニジェール) 。(「脆弱国家への支援方向性について」JICA研究所 2010)
(続きの連載2 を読む >>>)
※本稿は関西大学経済・政治研究所「セミナー年報2014」寄稿した拙稿「『脆弱国家』北朝鮮への人道支援はどうあるべきか ~役立つ支援と有害な支援~」に加筆修正したものです。