処刑されるのはスパイだけではない。占い師や同性愛者とみなされれば、ISが解釈した「イスラム法」に反したとして死刑の対象となる。「いつ自分が逮捕され、殺されるか、怯えて暮らすのはアサド政権時代と同じ」とベカルさんは話した。
◆劣勢のIS、包囲されるマンビジの町
住民は空爆とも隣り合わせだ。現在、シリア政府軍、ロシア軍、そして米軍など有志連合が空爆を続け、爆撃で命を落とす住民があとを絶たない。ISは依然、イラクとシリアで戦闘を継続しているが、徐々に支配地域を失いつつある。シリア北東部ではクルド人民防衛隊(YPG)が地元アラブ人部隊と合同でシリア民主軍を編成し、IS拠点の町や村を攻略している。民主軍は、ISが「首都」とするラッカ近郊にまで迫っているとも伝えられる。またマンビジの包囲網も狭まり、陥落は近いとも言われる。
しかし、町を解放しても、さまざまな問題が残されている。ISは撤退時に仕掛け爆弾をいたるところに設置し、除去は容易ではない。また施設にいた外国人の子どもたちを保護した場合、どうやって本国へ戻すのか。戦闘員として訓練された少年の心のケアを誰が進めるのか。彼らもこの戦争の被害者である。
ISは先月、幹部のアドナニ報道官が音声声明を発表し、決死戦の覚悟を求めたほか、欧米諸国での民間人への攻撃も呼びかけている。ISとの戦いは大きな局面を迎えている。(玉本英子)
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」6月21日付記事を加筆修正したものです)
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