「日本で大金が稼げる-」ブローカーの宣伝にのって来日したものの、渡航費用返済と授業 料捻出のため、劣悪な環境で昼夜働き詰めの留学生が少なくない。とりわけ、この5年間に10倍近くに膨らんだベトナム人留学生たちには、日本語学校や人手 不足の企業の食い物にされ、「奴隷」のように働かされている人たちがいる。安倍政権が掲げる「外国人留学生30万人計画」の実態は、形を変えた「出稼ぎ」 労働者の導入でしかなかった。気鋭のジャーナリスト出井康博が問題の核心に迫る。(アイ・アジア編集部)
◆留学という形の「出稼ぎ」
外国人留学生の数が急増している。2015年末段階で約24万7000人に達し、3年前から6万人以上も増加した。政府が2020年の達成を目指し、「外国人留学生30万人計画」を進めているからだ。同計画は安倍政権の「成長戦略」の1つでもある。
留学生の増加に異を唱える人はほとんどいない。移民や外国人労働者の受け入れには反対の人たちも、「留学生」と聞けば納得する。
留学を通じて外国人の若者が日本語を習得し、日本の文化にも慣れ親しむ。大学を卒業後は、日本の企業の戦力となってグローバル化に貢献してくれる…。そんなイメージで受け止められているようだ。
しかし、留学生の目的が「勉強」ではなく「出稼ぎ」だとしたらどうだろうか。「留学」すれば日本に長期滞在して働けると考え、発展途上国の若者たちが続々と来日する。多額の留学費用を借金してのことである。
もちろん、日本語も全くできない彼らができる仕事は限られる。日本人が敬遠する最底辺の仕事ばかりだ。賃金も最低レベルで、想像していたほどには稼げない。嫌になって逃げ出そうにも、借金を背負ったままでは国には戻れない。
かといって、日本に居続けるためには毎年の学費を支払い続ける必要がある。結果、“奴隷労働”から抜け出せない。「留学」を出稼ぎに利用するつもりが、逆に日本で都合良く使われてしまうという構図だ。
今、急増している留学生の多くは、こうした境遇に置かれて苦しんでいる。
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◆急増するベトナムからの「留学」
日本で学ぶ留学生といえば、数年前まで中国出身者が全体の6割以上に上っていた。だが、2011年から減少が続いている。中国の経済発展によって日本へ出稼ぎに行く必要がなくなったことと、福島第一原発事故の影響が関係している。
日本の大学や大学院に在籍する留学生の数も2011年から増えていない。にもかかわらず、留学生の総数は急増している。2012年には約2万 5000人だった日本語学校の留学生数は、昨年までに約5万6000人へと膨れ上がった。特定のアジアの国から、日本語学校に留学する若者が急激に増えて いるからだ。
その国とはベトナムだ。ベトナム人留学生の数は、2010年段階では5000人程度に過ぎなかった。それがわずか5年間で5万人近くまで増えた。今や韓国を抜き、中国に次ぐ多さである。
ちなみに米国出身の留学生は2723人、フランスは1314人、日本の隣国である台湾は8709人、約13億人の人口を抱えるインドに至ってはわずか1012人だ。ベトナム人留学生がいかに多いかわかってもらえるだろう。
ベトナムでは現在、日本への「留学ブーム」が起きている。その背後にいるブローカーの存在が見逃せない。
「日本に留学すれば、アルバイトで月20万—30万円は簡単に稼げる」
そんな甘い言葉をインターネット上に流し、ブローカーは無知な若者たちを勧誘する。
ベトナムは国としては経済成長を続けているが、その恩恵は庶民にまでは及んでいない。大半の国民は農民で、普通に仕事をしていれば日本円で月1万— 2万円程度しか稼げない。いくら物価が日本の数分の1程度だとはいえ、生活は楽ではない。何より若者には夢の描きにくい暮らしである。
そうした若者にとって、海外への出稼ぎは人生を一変させる機会となる。出稼ぎ先としては台湾や韓国、日本などが一般的だ。
日本の場合は「外国人技能実習制度」による受け入れが、就労は最長3年までしか許されない。しかも実習生の月収は10万円程度に過ぎない。そんな 中、「留学」で「月20万~30万円」が稼げるとの情報が流布され、若者たちが日本へと殺到しているのだ。だが、彼らは日本で厳しい現実を知ることにな る。
ブローカーに騙されて来日し、さらに日本でも日本語学校や人手不足の企業の食い物になっているベトナム人留学生たちと、これまで私は数多く出会ってきた。(2を読む>>)
1965年、岡山県生まれ。ジャーナリスト。英字紙「ニッケイ・ウィークリー」記者などを経てフリー。著書に『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、 『長寿大国の虚構—外国人介護士の現場を追う—』(新潮社)など。『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)を7月21日に上梓。