Q. では、ミャンマー国内の仏教徒は人口のどのくらいの割合なのですか?
A. 一般的に出される数字として、ミャンマーの総人口は約5100万人で、そのうち約90%が上座仏教徒です。上座仏教の他に、キリスト教、ヒンズー教、イスラームが信奉されています。また、「ナッ神」という土着の精霊信仰が生活の隅々に入り込んでいます。
Q. ビルマは多民族国家といわれますが、その数はいくつぐらいあるのですか?
A. ミャンマー政府は公式に135の民族が存在していると発表していますが、その区分けは果たして妥当かどうか考える必要があります。というのも5100万人の人口に対して、その区別は細かすぎるのではないかと思われるからです。ベトナムは人口が約9100万人でミャンマーよりも多いです。でも公式な民族数は54です。そのベトナムでは、民族数で次のような指摘もあります。
《54の国定民族として認められていないサブグループや地方グループに位置づけられている人々が(中略)自らを新たな「一民族」として認めるよう、国家に要求する声を上げたのだった。これに押されて、国家は民族数を増やすことを含めて、民族分類枠組みの再検討を開始した。この作業は当初国家が予想していたような「民族学的」「文化人類学的」な調査で解決できる問題ではなく、政治問題であることが明らかになっていった。
(中略)しかし、それらの要望をすべて受け入れると、現在の倍、つまり民族数は軽く100を越えることだった。》
(伊藤正子『民族という政治―ベトナム民族分類の歴史と現在』)
ここでの指摘は重要です。つまり「民族」という区分けは、おしなべて「政治問題」なんですね。ちなみに約13億5000万人という世界最大の人口を抱える中国は、公式に56の民族を認定しています。
Q. では、その政治問題ともいえる民族数に、ビルマではどういう説明があるのですか?
A. ビルマの政府発表によると、ビルマには8大主要民族があり、さらにその下に135の下位集団(サブグループ)が細かく規定されています。
この8大主要民族とは、(1)バマー(ビルマ〈ミャンマー〉)(2)カチン(3)カヤー(カレンニー)(4)カレン(カイン)(5)シャン(6)ラカイン(アラカン〈ヤカイン〉)(7)チン(8)モンです。
地図を見ると、国境周辺に位置している「州」の名前の前にそれぞれの民族名が付けられています。(ミャンマー〈ビルマ〉族が多く暮らす「管区」は現在、「地域」訳される)
また135という数字は、1983年に行われた調査結果であり、それ以降は正確な調査は行われていません。実は2015年11月に行われた25年ぶりの総選挙のため、その前年の2014年に国勢調査が行われました。各選挙区の人口は発表されましたが、民族の詳細については選挙が終わった2016年になっても発表されていません。それはやはり、「民族」というのが敏感な事柄だからなのです。
さらにこの135という数字の内訳を見てみると、チン民族に53の、シャン民族に33の下位集団(サブグループ)があります。ということは、この2つの民族だけで、その合計は86もあり、135の区分けされた6割以上のサブグループ(下位集団)を形成しています。地図を見てみると、国土の約25%を占めるシャン州に33のサブグループがあり、国土の約5%のチン州に53のサブグループがあるのです。民族数を考えるとき、この偏りをどう判断するかです。
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