3-2 商業的交通機関の誕生
国営交通手段の麻痺に伴い登場したのは、商業的交通手段である。
トラックやダンプの荷台に人を乗せて走る乗り合い自動車は、「サービ車」と呼ばれている。「サービ」とは、英語の「サービス」から来たようだ。地方によっては「ポリ車」とも呼ばれている(「ポリ」とは「稼ぎ」の意)。「サービ車」は、軍、保安(警察)、党機関、行政機関、保衛部(情報機関)、青年同盟などの公的機関が、所有する車両に運賃を取って客を乗せて金儲けをする場合もあれば、機関が車両を個人に一定期間貸し出して運行させる場合もある。後者は、ガソリンや部品代などの経費を負担させた上、売上の一定額を納めさせる、いわば「外部委託」である。
「サービ車」がさらに発展したのが、「稼ぎバス」と呼ばれる中長距離運行のバスだ。「トンチュ」と呼ばれる新興富裕層や機関が、主に中国から中古バスを買い入れ、国家機関の傘下会社の看板を、上納金を払って借りて運営する。北朝鮮では個人経営の会社は許されておらず、このように国家機関の傘下会社となって利潤を追求する形態を取るケースが多く、「基地」と呼ばれている。
鉄道や市内公共バスなどの国営交通機関の運賃は国定だが、「サービ車」や「稼ぎバス」の運賃は、ガソリン価格やその他の物価と連動して変動する市場価格である。筆者が北朝鮮内部で調査した鉄道と「稼ぎバス」の主要路線別の運賃をいくつか示しておく。
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