◆イスラム教への改宗を拒否した男性たちは銃殺
イラク北西部シンジャル郊外のハルダン村を訪れたのは今年3月。昨年まで武装組織「イスラム国」(IS)の支配下にあった場所だ。地元クルド兵とともに草原が広がる丘を上る。そこには黄色い菜の花が咲いていた。ヤズディ教徒が虐殺された現場だ。花は目印にするためにクルド兵が植えたという。土にまみれた服やサンダルが散らばり、地面をかき分けると、骨がいくつも出てきた。
今から2年前の8月、ISは、シンジャル一帯の町や村を一斉に襲撃。大混乱のなか、数万人がクルド自治区などに避難した。包囲されて脱出できなかった地域では、殺りくが始まった。5000人がいたハルダン村では、500人が殺害された。小さな村では家族や親戚の誰かが犠牲となった。
避難先から一時、村に戻ってきた男たちが虐殺現場を訪れていた。親族82人が殺されたというハッジ・スケンデルさん(45)は、携帯電話を取り出し、画面に残された男たちの写真を見せた。「ヤズディ教徒というだけで、みんな殺された」。ISは少数宗教ヤズディ教を「悪魔崇拝」と決めつけ、住民にイスラムへの改宗を迫り、受け入れなかった者や見せしめに、次々と銃殺した。女性は「戦利品」として拉致していった。ヤズディ団体の調べだけでも1200人以上が殺害されている。数百人がなお不明のままで、虐殺数はさらに多いとみられる。
ハッジさんは村の小学校の教師だった。全児童43人のうち、40人の行方が分からない。ISは子どもたちも支配地域に連れ去った。拉致され、その後、命がけで脱出してきた女性は、多数の幼い女児がIS戦闘員と強制結婚させられていると、ハッジさんに伝えてきた。
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