前の写真の1、2階部分。窓には盗難防止の格子も入れられ既に入居しているのがわかる。建設投資を早く回収するために売るのだという。2008年10月黄海南道海州(ヘジュ)市にて撮影シム・ウィチョン(アジアプレス)


4-3
販売目的の建設投資も登場

2000年代初めから、トンチュ(金主の意)と呼ばれる新興富裕層が出現したことは述べた。腐敗した特権層と、その周囲に寄生して、拡大・増殖する市場経済の中でうまく財を成した者たちである。このトンチュたちが、ある時は単独で、ある時は共同して金を出し合って、一等地にアパートを建て、販売するケースが2005年頃から報告され始めた。

といっても、個人が不動産の所有登記はできないので、権力機関の名義を借りて建設して国家住宅として登録し、やはり「入舎証」を販売するのだ。建前上は国家住宅であるが、資本主義社会の不動産投資と変わるところはない。2015年夏の時点で高級住宅の相場は上がり、平壌の最高級アパートの場合は20万米ドル程度、地方の場合は3~5万米ドル程度だという。

国家所有の住宅が売買されるという、北朝鮮式社会主義秩序の根幹を揺るがしかねない現象が発生しているのは、労働党政権が住宅問題を解決できず、社会の需要を満たせなくなっていることに原因がある。「住宅取引の闇市場」は、誰が指導したわけでもないのに、国家に代わって住宅流通機能を立派に代行しているのだ。(続く)

<北朝鮮 市場経済の拡大>記事一覧

参考文献
「北朝鮮内部からの通信リムジンガン」第2号 2010年3月(アジアプレス出版)「북한에서의 주택가격결정요인에 관한 분석-함경북도 무산지역의 사례를 중심으로」(北韓の住宅価格決定要因に関する分析―北道茂山地域の事例を中心に)チョン・ウニ 東北亜経済研究第25巻第2号 韓国東北亜経済学会 2013年6月 p243-p277

「북한 부동산시장의 발전에 관한 분석 -주택사용권의 비합법적 매매 사례를 중심으로-」 (北韓不動産市場の発展に関する分析―住宅使用権の非合法的売買事例を中心に)チョン・ウニ 東北亜経済研究第27巻第1号 韓国東北亜経済学会 2015年3月p289-p328

 

【関連記事】
<北朝鮮>不動産取引の怪1
<北朝鮮・壊れる社会主義>売買される国家住宅
<連載>北朝鮮への人道支援はどうあるべきか ~役立つ支援と有害な支援~1 北朝鮮は「脆弱国家」である 石丸次郎

★新着記事