北朝鮮でも2000年代に入って映像機器のデジタル方式への切り替えが始まり、安価な中国製のビデオCD、DVDの再生機が普及し始めた。北朝鮮当局も、これら映像機器自体を厳しく規制しなかった。自国の映画やプロバンガンダ映像を国民に見せる必要があったからだろう。
韓国のドラマはコンテンツとして圧倒的な支持を得て闇市場でよく売れた。儲かるのだから商売人たちは、新作をせっせと密輸しては複製して北朝鮮内で流通させた。もちろん、北朝鮮の警察当局は、「不純録画物撲滅」キャンペーンを繰り返し行って取り締まりを強めたが、撲滅するには至っていない。このように、北朝鮮内部に人の好奇心に根ざした「外部情報の市場」が生まれ、政権がもっとも警戒していたはずの、主敵韓国の映像を大量に流通させるという事態を生みだしたのである。
5-4 移動統制の綻び
北朝鮮は移動の自由がない社会である。居住地から他道に行こうとすると、人民委員会(地方政府)と保安署(警察)を回って「旅行証明書」の発給を受けなければならない。かつては、冠婚葬祭や出張などの用事でなければなかなか発行されなかったが、市場化の進展に伴って人の移動、商品を運ぶ需要が激増し、現在では、多少の賄賂を渡せば簡単に全国を移動できるようになった。(ただし、平壌と韓国との軍事境界線近く、中国国境沿線は厳格)。移動統制は大幅に緩んでいるわけだ。(続く)
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