8月に入り、人民軍兵士の食料事情が悪化していると複数のメディアが報じている。アジアプレスでは、咸鏡北道に住む取材協力者に依頼し、国境警備隊の食料事情について調査した。(カン・ジウォン/石丸次郎)
◆規定の30%に満たない供給量、塩もない
北 朝鮮国内に独自に情報ルートを持つ米国の「自由アジア放送」(RFA)は1日付けで、清津(チョンジン)市で食料不足に苦しむ部隊員らによる盗みで住民に 深刻な被害が出ていると伝えた。また9日にも、新兵のほとんどが深刻な栄養失調だと伝えている。また韓国の「デイリーNK」は8日、軍糧米を過剰に徴発さ れた黄海南道の協同農場で飢餓が発生していると伝えた。
アジアプレスの取材協力者が8月下旬に調査したのは、朝中国境の川・豆満江中流地域に駐屯する、ある国境警備部隊。その分隊長に直接会って話を聞き、周辺の農場の事情を調べた。
「最 近では、国境警備隊も『ムクジ飯』を食べているそうだ。 それも1日に200~250グラムほどで、食器一杯もならない量だ。それにジャガイモを混ぜたものしか出せず、若い兵士たちは、空腹で大変辛そうにしてい ると言っていた。 (国からの)供給がちゃんと届かず、7月からは汁に入れる塩もなくなって、近くの協同農場に行って分けてもらっている有り様だ」。
「ムクジ飯」とは、皮つきの乾燥トウモロコシを米粒大に割ってご飯のように炊いたもののこと。
北朝鮮で軍服務を経験した脱北者は、内部協力者の調査内容について
「『ムクジ飯』は、人民軍隊でも食料が不足した時に食べる物だが、さらに塩までないというなら、兵士の食事は相当ひどいはずだ」と語る。
人民軍の一般兵士の食事は、主食1日800グラムと規定されているというが、分隊長の証言では、その30%程度にしかならない。一食当たりにすると100グラム未満で、それも低質の雑穀である。
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