19人が死亡、26人が負傷した相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」殺傷事件からまもなく1か月。「障害者は生きていても意味がないから殺した方がいい」などの植松聖容疑者の言い分が多くの人に衝撃を与えた。重度障害者は生きている意味がないのか。滋賀県の重症心身障害児・者施設「びわこ学園」元園長の高谷清さん、堺市の障害者自立学舎「しっぷ」施設長で自身も障害を持つ菊野健一さん、知的障害の息子を持つ奈良県五條市の岩井恵照さん3人に、それぞれに話を聞いた。(矢野宏/新聞うずみ火)
◆重度心身障害児次節「びわこ学園」元園長 高谷清さん(78)/お互いを大切にしたい
「まさおくん、体調はどうや。苦しくないか」
元びわこ学園長の高谷清さん(78)は診察を終えて病棟を訪ねると、ベッドに横たわる重度障害者一人ひとりに声をかけていく。返事はないが、高谷さんは眼鏡の奥から優しいまなざしで見つめ、しぐさや息づかいにまで注意を払う。
まさおくんと呼ばれた男性は知的、身体障害が重く、びわこ学園に5歳で入所して以来、寝たきりで過ごしている。自力で呼吸ができないため、喉の一部を切開して直接チューブを気管に通し、人工呼吸器に頼っている。
動けないし、しゃべることもできない。
曲がった手足は、意思とは関係なしに緊張し、てんかん発作も起こる。
30歳を過ぎているが、働くことはおろか、自分の身の回りのこともできない。生きるすべてに人の助けがいる。
だが、そこにはかけがえのない一つの「命」がある。
まさおくんの手を握っていた高谷さんがこちらを振り返り、こう語った。
「許されへんやろ、こんな一番弱い命に手をかけるなんて」
その目には怒りと悲しみが満ちているように見えた。
「障害のあるないの違いはあっても、かけがえのない命は、人間みな同じ。彼らが粗末に扱われるということは、すべての人の命が粗末に扱われるのと同じことなんやで」
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