しかし、今年2月に委託したアスベスト繊維40本の長さと直径を調べる詳細調査については、3月4日付けの報告からわずか1か月足らずで開催された3月25日の第6回検討会において委員に説明している。同じ詳細分析でもこの扱いの差はあまりにも不自然だ。
これら2つの詳細分析結果から浮かび上がるのは、微細・微少なアスベスト繊維の分布をある程度でも検討会に報告することで委員が満足してくれるのではないかと市が考えたのではないか。つまり、今年3月の報告により、委員からそれ以上に詳細な分析データを求められることがなく、最大7万5000本(通常測定でも3100本)という超高濃度の飛散を隠し通そうという隠ぺい疑惑である。
アスベスト被害者の支援活動に取り組み、検討会の傍聴をしてきた名古屋労災職業病研究会(代表:森亮太杉浦医院院長)の成田博厚事務局長は「隠しているとしたらとんでもない話。検討会をやっている以上、新しいデータが出てきたら報告し検討会の判断をあおぐのが当然です。事故の原因究明もうやむやになっており、(同じように)『過去のもの』として隠してしまおうと思ったのではないか」と指摘する。
市側は隠ぺい疑惑については情報公開請求に対し非開示や不存在と回答しなかったことを理由に否定した。仮に百歩譲って隠ぺいではないにせよ、1年以上も検討会で報告をおこたったのは間違いない。これは地下鉄利用者や住民らの健康リスクを検証する検討会を軽視する行為といわざるを得ない。
市に分析結果の評価を聞くと「どのように健康被害の評価にこの結果を使っていくのか、今後検討会の中で諮っていく形で決めていきたい」と濱田課長は答える。
ならば、すぐ報告するのが当然だろう。その間2回の検討会での報告を見送り、1年以上もあえて報告しないというのはあまりにも不自然だ。すぐ報告しないといけない重要データではないのか。濱田課長は「そういうふうには思っておりません」と否定。
ではいつ報告する予定だったのか。濱田課長の回答は「タイミングですか。決めておりませんでした。当面出さないことも決めておりません」という無責任なものだ。
それを放置してきたというのだろうと問い詰めると、「結果的にはそうかもしれませんが、大事なデータですのできちんと取り扱う」(濱田課長)と報告をおこたってきた事実をようやく認めた。
なぜ1年以上も報告をおこたったのか。その理由についても散々尋ねたが、まともな説明はなかった。高濃度飛散を示す、市にとって都合の悪いデータだから放置してきたということだろう。
前出・成田事務局長は「結局、市が真剣に今回の飛散事故に向き合ってないということだと思います」と市の対応ぶりを批判する。
市は9月16日に第7回となる検討会を開催する予定であり、今回の分析結果も報告される見通しだ。そこで1年以上も隠ぺいあるいは放置してきた不始末について市がどのような謝罪や釈明をするのか注目したい。(井部正之)