今回の水害被害について、被災地の住民たちの間では、当局の無策が被害を大きくしたという意見が出ている。前出の取材協力者A氏は次のように言う。
「中国側は高い堤防を築いていたので被害はさほど大きくなかったが、朝鮮側は、セメントがなくて住民を動員して石を積み上げただけ。堤はすぐ壊れて水が溢れ、家も収穫前の畑も流された」。
一方、中国当局が北朝鮮側の人命救助に積極的だったことを、現地の住民たちは見ていた。前出のBさんは、
「普段『中国野郎』などと悪口言っていたが、今回は随分助けられた。川で救援を求める人たちは、朝鮮の国境警備隊ではなく、中国側に『助けて』と手を振っ ていたほどだ。中国は、ヘリコプターを飛ばして救助してくれたし、高速ボートで捜索も続けている。我われの方は、人民委員会(行政機関)も労働党委員会も 何もしなかった。川岸に立って人が流されるのを見物していただけだ。捜索も川べりを棒で突いて人が引っかかっていないか見る程度だ。国が貧しいから人が犬 のように死んだ。可愛そうだ」
と、自国当局の無策を批判した。
また、大水の中で次のような事件があったと、別の協力者は伝える。
「ある女性が、家が浸水するとおばあさんより先に(金日成と金正日の)肖像を家から持ち出したため、おばあさんは流されてしまった。以前であれば、『水害から肖像画を守った』として表彰されただろうが、近所の人々は、その女性を「おばあさんを死なせた」と口々に罵った」。
北朝鮮政権は、二人の首領の肖像を命のように大切に扱えと教養宣伝してきた。粗末に扱うと処分の対象になり、災害時などに大切に扱うと表彰される。この女性は、肖像を守って家族を失うことになった。
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