◆金日成死亡がシステム麻痺のきっかけ
第二に、食糧の不足でパニックが発生したと見ては、「首領も『金日成民族』も存在しなかった」とする、現実否定の立場に陥ってしまう。世界が目撃しショックを受けたように、首領の死亡で受けた北朝鮮と人民の打撃は甚大だった。
今 でも、「亡くなった首領は永生する」としている北朝鮮の認識からも分かるように、金日成の死は、その死亡を否定したり、あるいは自らの人格が喪失されたり するほど衝撃的だった。北朝鮮全社会が一時的に混乱に陥ったり、あるいは制度が麻痺したりしても、それは歴史的、世界的に見ても何ら不思議なことではない だろう。
社会主義国家の歴史的経験を見ても、スターリンの死亡後のソ連では、新しく修正主義路線が出たし、毛沢東の死亡以後の中国では開放改革路線が出発した。先行の時代と差別化し、それ以前の時代を動かした「偉人」の名前をもって歴史の一幕を終わらせたのである。
いくら否定しても、北朝鮮でもそのような「偉人現象」は現れたのである。すなわち、その表面的な最大の特徴が、まさに「コチェビ」の大量発生であった。それを首領の死亡抜きに理解することも、説明することもできないのである。
1991年に社会主義政権が崩壊したソ連では「コチェビ」の大群が発生したと、他ならぬ北朝鮮が大宣伝し、その原因は国家制度の破壊にあると冷静に解釈した。そして、だからこそそのような破壊から国を守ろうと訴えた。
皮肉にも、その後北朝鮮で悲惨な「コチェビ」の大群が発生した。北朝鮮の国家制度が破壊したと見なくても、確かに「コチェビ」の大群は金日成首領死亡直後から発生したのは動かせない事実である。北朝鮮がソ連の社会主義崩壊のときに大宣伝したのと匹敵する出来事が北朝鮮でも発生したのである。
その原因は疑う余地もなく首領の死亡であった。その結果、国家の食糧配給制などが崩れて、食糧分配に危機が発生したのだ。その末端の現象として、弱者の「コチェビ」の大群が発生したのであった。(続く)
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