◆刑法の原則崩す
2000年に国境を超えた組織犯罪に対処するため国連総会で「国際組織犯罪防止条約」が採択された。日本は今も締結しておらず、 政府は「締結するには共謀罪の整備が必要だ」と訴えている。
だが、日弁連の調査では、「この条約を批准した各国とも、その国の法制度ですでに条約を満たしているか、多少の法整備をするなどして批准している国がほとんどだ」という。つまり、各国の国内法の原則に合わせた立法があればいいのだ。これを踏まえ、永嶋さんは次のように言う。
「もともとはマフィア対策として出てきたのが、テロ対策に変わるなど、本来の目的と違っている。日本の刑法の大原則を覆すほどのことまでして共謀罪がいるのか。テロ対策というのなら、すでに『爆発物取締役罰則』があり、殺人や強盗、放火、誘拐についても予備の段階で処罰されるなど、現在の法律で十分事足りるのです。この上、700近い共謀罪を新設する必要はまったくありません」
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◆狙いは捜査拡大
政府の狙いは別にある、と永嶋さんは次のように指摘する。
「共謀罪が創設されると、警察の捜査範囲や権限が大幅に拡大します」
捜査の権限は基本的に、犯罪行為が行われている可能性がある場合に、その犯罪が行われているかどうかを調べる上で必要と思われる範囲に限定されるが、ある人物が犯罪について他の人と相談するだけで犯罪になるとしたらどうなるか。誰かが犯罪行為について相談していないかを調べるためには、その人物の会話などを盗聴する必要がある。
奇しくも、今年5月には「盗聴法」と呼ばれる「通信傍受法」が改正され、その範囲の拡大を認めさせた。
「共謀罪が導入されると、政府や警察は合法的に一般市民への盗聴や監視を行うことができるようになります。監視社会が到来します」
なぜ、政府はこの時期に共謀罪の新設を目指すのか。
「市民運動や労働運動が邪魔だと思っている人には、共謀罪は便利なもの」と永嶋さん。
「安保法制が強行採決され、戦争への道が開かれようとしている。さらに改憲の反対運動が盛り上がる中で、政府に反対する人間を取り締まることが可能になる。10年前に共謀罪を廃案に追い込んだ時は盗聴法も拡大改正されておらず、司法取引もなかった。現在の危険度は飛躍的に高まっています」 (おわり)(新聞うずみ火/矢野宏)
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