8月末に北朝鮮北東部で発生した洪水の被災地から、嘆きと怒りの連絡が続々届いている。大雨が降ったのは朝中国境の豆満江流域の咸鏡北道(ハムギョンプクド)。私の取材協力者や知人が大勢住んでいる地域だ。知人のうち何人かは被災し、まだ連絡が取れない人もいる。
会寧(フェリョン)市に住むAさんは、9月中旬、おいおい泣きながら電話をかけてきた。幼い姪を含め親戚数人が家ごと流されて行方不明のままだという。洪水発生の日のことをAさんは次のように振り返った。
「みるみるうちに増水して、堤があっという間に決壊しました。川沿いの詰所にいた国境警備隊員が大勢流されました。中国側は立派な堤防があるのに、朝鮮側はセメントがなくて石を積み上げただけ。中国はヘリコプターやモーターボートを出して救助活動していたのに、こちらの役人は手も足も出せず、ただ川を眺めていただけでした。川に取り残された人たちは中国側に手を振って助けを求めたんですよ。国が貧しいので人民が犬のように死ぬことになる」。
茂山(ムサン)郡に住むBさんは土砂で家が半壊、自身も怪我を負った。
「町の避難所に70名くらいで寝泊まりしていました。行政が米とトウモロコシを少し出していましたが、住民たちが詰めかけるようになって打ち切られ、近所の住民の家に移されてしまいました。町内は未だに停電続きで水道も出ません。国連の視察団の姿を見ました。お先真っ暗なので住民は支援を大いに期待しています」。
金正恩政権は、被災地支援を全国に呼びかけ、軍隊や職場で組織した「突撃隊」という復旧部隊を被災地に投入している。だが問題が多いと、会寧市に住むCさんは次のように言う。「重機がなくて、軍人たちは、皆、素手で作業しています。いつ復旧するのか気が遠くなりそうです。また、他所から来た部隊による空き巣や強盗、畑の作物泥棒が横行しているんです」。支援部隊による「二次被害」については、他の知人たちも口を揃える。
国連傘下の人道支援機関は被災地を共同調査し、北朝鮮当局から伝えられたとして死亡・行方不明500人超、流出・倒壊した家屋・建物は約3万棟に上り、約14万人に支援が必要だと報告している。どこまで実態を反映しているか不明だが、被災地の知人たちの話を聞く限り、被害は甚大であり、人々が支援を渇望しているのは間違いない。
しかし、金正恩政権が、豪雨被害が発生した直後の9月9日に核実験を強行したため、国際社会の支援の動きは極めて低調だ。金正恩氏自らが世界に直接支援を要請し、国連と民間の人道支援団体、報道機関が、交通の便が良い中国側から被災地に入って調査と支援活動を制約なく行うことを、急ぎ認めるべきだ。民の犠牲を最小限に食い止めるために。
※本稿は、10月4日付け毎日新聞大阪版に寄稿した原稿を加筆修正したものです。
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