朝鮮民族は長幼の序を重んじる。北朝鮮も「敬老の国」であったはずだと思うのだが、1990年代後半の社会混乱の中で、若い現役世代までもがばたばた斃れ、年寄りを大事にする精神は霧散してしまったようだ。
「おい、老いぼれ、ババア、ジジイなどと、若者に蔑みを言われることが日常になった。世も末だ。この国の精神は荒み、道徳は消え失せた」
中国から北朝鮮に越境してきた老人たちから、いく度となく聞かされた言葉だ。
貧困が危機的な水準になると、社会から倫理や道徳が後退していくのは多くの国で見られる事象だ。逆に言うと、飢餓を脱すれば徐々に回復していくはずだと思われたが、北朝鮮において「敬老精神」の廃れは続いている。
飢饉は収まったが、食糧配給と社会福祉の制度が破綻したままの北朝鮮では、「稼いで食う」ことが至上命題になった。年寄りを無為徒食の者とみなす風潮が、広く社会に刻まれてしまったように見える。(石丸次郎)
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