外国人が拘束されると、メディアは大きく報じ、その国の政府は少なくとも何らかの対応をとる。だがイラクでは、兵士がISの捕虜となっても、住民が「スパイ」として拘束されても、まず動いてくれない。命の価値は同じはずなのに、そこには線引きがある現実。今年6月までに1500人におよぶペシュメルガ兵が戦死している。広範な戦線を抱えるイラク軍の犠牲者はさらに多い。

セルダルさんの遺体のないまま、親族で葬儀をおこなった。地元政党の担当者ひとりが訪れただけで、その後は何の連絡もなかった。瞳いっぱいに涙を浮かべたデーメンさんは、私を抱きしめた。
「夫を殺されたうえに、政府にも見捨てられた思いです。もう私は死んだも同じ……」

今、モスル奪還戦が続いている。戦死者は相次ぎ、民間人も戦闘の巻き添えになっている。【玉本英子】

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」12月6日付記事を加筆修正したものです)
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