「憲法違反して政治が行われていることが問題」と話す、神戸学院大教授の上脇博之さん
「憲法違反して政治が行われていることが問題」と話す、神戸学院大教授の上脇博之さん(撮影・新聞うずみ火)

では、「自衛隊は実際にあるのだから憲法に明記すべき」という議論について、上脇さんは「憲法は国の最高法規ですから、それに違反して政治が行われている、それ自体がおかしいと言わなければならないのに、『現にあるからそれを認めるべきだ』という言い方をしてしまったら、憲法違反を追認することになる。立憲主義の国家では考えられないことです」と説明する。さらに、殺人事件を例にとり、「殺人を犯す人がいるから殺人を認めてしまえという人はいないでしょう。それと同じで、現にあるから認めろというのは説得力がない」という。

また、安倍政権に批判的な人の中で「こんなに憲法が蹂躙されるなら自衛隊を認めるよう改憲して歯止めをかけるべきだ」と主張する人もいる。「明らかに間違っている」と上脇さんは話す。

「今でさえ、こんな状態なのに、正面から自衛隊を認めてしまったら今以上に歯止めがなくなる。今、政府の解釈でさえも自衛隊は軍隊ではないという立場なのです。9条を変えて正面から集団的自衛権の行使を認めてしまったら軍隊になってしまいます。現に過去の戦争は「自衛権の行使」が行われての侵略戦争もあるし、自衛の名のもとにアメリカ軍は海外へ出て行っている。9条があるがゆえに、武力の行使はできないと言わざるを得ないです。9条で自衛隊を認めてしまったら、海外へ出て行って、自衛権の行使として武力行使を行う。アメリカと同じことができてしまう。歯止めにならないと思います」

さらに、上脇さんは「改憲して自衛隊を軍にすると、軍法会議も必要となる。軍の機密は軍人に限らず、一般市民も対象になっていますから、当然人権侵害の方向へ行くし、知る権利も後退する。悪政に正当性を与えてしまう」と警鐘を鳴らす。

改憲派の多くが中国や北朝鮮脅威論を挙げるが、上脇さんは「日本は外国からどう見られているかとの視点が欠けている」と指摘する。

「ポツダム宣言を厳守する形で日本国憲法ができた。ところが、朝鮮戦争の思惑の中でアメリカが『警察予備隊を作れ』と言った。それこそ『押しつけ自衛隊』です。そうすると、『日本はポツダム宣言を守らない』と宣言したようなものです。かつて侵略戦争をした国が軍事大国のアメリカに追随し、『日本は危険な国』と見られるわけですから、結果的には近隣諸国に軍事大国化する口実を与えてしまっているのです」

また、北泊さんも「戦前はイギリス、戦後はアメリカと、保守政治家の歴史観は変わっていない。世界の大国と結びつくことで安定的な位置を得ようとしている。その結果、アメリカの国際戦略に引きずられている」と話す。(矢野宏/新聞うずみ火)

 ◎GHQ案:国権の発動たる戦争は廃止する。いかなる国であれ、他の国との紛争解決の手段としては、武力による威嚇または武力の行使は、永久に放棄する。 陸軍、海軍、空軍その他の戦力を持つ機能は、将来も与えられることはなく交戦権が国に与えられることもない。

◎憲法9条:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

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