加えて問題になっているのが、冒頭で触れた兵役忌避と部隊離脱、脱走だ。一般社会では食糧難はほぼ解消されているにもかかわらず、人口の5%、100万超といわれる人民軍では、現在も栄養失調が蔓延している。国家が財政難で軍糧米を確保できていないためだ。それで親たちは、子供の入隊を忌避したり、食事事情の良い部隊に配置されるよう、賄賂や仮病などあの手この手を使うようになった。
「昨年入隊した子供たちには、病気を理由にして家に戻ってくる者が多い。てんかん発作の真似をする者もいる。私の住む町内から昨年軍隊に行った若者は8人程だったが、すでに3人が戻ってきてしまった。彼らに話を聞くと、『飢えて死ぬなら親のそばで死んだほうがましだ。軍生活はもう死んでもできない』とまで言っていた。(当局は)軍服務を忌避した者については、親を思想闘争集会に引っ張り出したり、労働党員の場合は党除名や役職の解任までしている」と述べた。
しかし入隊忌避現象は根絶できていないと言う。取材パートナーは次のように北朝鮮の内の雰囲気を伝える。
「多くは仮病を使っておいて賄賂を与えて処罰を回避する。軍服務を果たさないと労働党入党や出世は絶望的だが、最近の若者は気にしない。金の力をよく知っていて、早く社会に出てお金を稼いだ方がいいという考えだ」
金正恩政権は、「祖国のために奉仕する」という人民軍のスローガンを掲げている。しかし過去の世代とは異なり、市場経済全盛の時代に成長した新しい世代の意識の変化は著しく、兵役忌避という、かつてあり得なかったことが発生しているのである。(石丸次郎)
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