金正男氏が殺害された件を、北朝鮮の住民はどのように受け取ったのか。金正恩政権による犯行だという確証は、現時点ではまだないのだが、北朝鮮に住む二人の取材協力者に話しを聞いた。あらかじめ韓国で報道されたニュースの内容をメールで伝え、16、17日に電話とメールでインタビューした。まだ北朝鮮国内では、事件の情報が広がっていないようである。
一人目は、北部の咸鏡北道に住む取材協力者A氏(30代の男性労働者)。
――金正男氏について、そして今回の殺害事件を知っていますか?
A 他の人は(金正男氏を)知っているかもしれないが、私は金正男が誰なのか、聞いたこともないし、今回殺されたということも知らなかった。(金正男氏については)知らない人の方が多いのではないか。ここ(北朝鮮)では、ちょっとしたことでも罪とされて殺してしまうので、(金正男氏)が国に反対したり、将軍様(金正恩氏)の権威を傷つけるようなことをしたので殺されたのではないか?
――もし金正恩氏の指示だとしたら?
A (金正男氏を)殺すことはなかったのに。兄弟なんでしょう? 金正日将軍は、平日(ピョンイル)同志を殺さなかったではないか、大使として送り出して。殺してしまうなんて恐ろしいことだ。兄弟ですら殺すのだから、私たちのような者の命はハエのようなものだ。
(金平日氏は金正日氏の異母弟。東欧諸国で長く大使を務める。現在は駐チェコ大使)
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――国内の雰囲気はどうですか?
A 最近のことだが、近くの職場で友人同士が集まって酒を飲んで、将軍様の年齢がどうだ、若造のくせに何が分かる、というような話しをしていたのだが、その中の一人が密告して、二人が家族ごとあっという間に消えてしまった。その人たちが働いていた〇〇職場にも検閲が入り、(党の)細胞秘書が首になった。とんでもないことだ。金正男も、同じような意図で殺したのかもしれない。
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