今や、平壌の高層アパート街が、外国メディアが案内される定番になっている。2016年5月に開催された第七回労働党大会の取材で訪朝を許された外国メディア各社は、大同江沿いに建設された「未来科学者通り」に連れて行かれた。林立するパステルカラーのアパート群を見て、「六本木ヒルズみたいだ」と感嘆の声を上げる記者のリポートもあった。金正恩政権としては、してやったりだったに違いない。
このように高層アパート群は、「革命の首都」平壌を現代都市として演出、宣伝する格好の大道具として大層役立っているが、実際に住むとたいへん不便が多いのだそうだ。
「7階建て以上の高層アパートには、一応エレベーターを設置することになっているが、今の北朝鮮は電力難が極めて深刻。平壌でも高級幹部用のアパート以外は、エレベーターはほとんど動かない」
と、平壌在住の取材協力者ク・グァンホ氏は言う。
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咸鏡北道から脱北者だが、平壌でのアパート暮らしの経験があるリ・サンボン氏は次のよう経験を語る。
「光複通りにある保衛部(秘密警察、現在は「省」)アパートに長く居候したことがあるが、その家は42階なのにエレベーターが動かない。上り下りが毎日どれだけ大変だったことか。高層階に住む年寄りは外出もできない。さらに深刻なのは水。電力難でポンプが動かず水道が出ないアパートがほとんどだ。そのため、滑車を使ってバケツの水を窓から吊り上げたり、「交差給水」といって、時間ごとに水道を使用する階を交代したりする。アパート街には毎朝リヤカーにポリタンクを積んで水売りがやって来る。糞尿の処理も毎日大変だ。トイレの水が流れないのでポリ袋に入れて外出する時に持って出なければならない。面倒なので夜間に窓から捨てる不届き者が多い」
立派に見える平壌のアパートでも、中級クラスで水道が出るのは一日一回。党や軍の高級幹部用の高級アパートでも一日二回程度。水圧が弱いので高層階まで上がらない。中心部の中区域の通称「二万ドルアパート」※でも水は24時間出るわけではなく大概が時間制の『
交差給水』だった。低層のアパートでは、住民が金を出しあって井戸を掘るケースが多い」
と、2011年まで平壌中心部に暮らしていた脱北者のペク・チャンリョン氏は言う。
※(住宅は法律上はほとんど国有だが、「入舎証」と呼ばれる入居許可証が闇で売買されている。位置と設備が良く新しい住居の「入舎証」は万ドル単位で取引されている)
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