イラク北部の大都市モスルは、2年半以上にわたり「イスラム国」(IS)が支配してきた。現在、イラク軍の掃討作戦が続き、東部地域ではISが敗退、政府側に奪還された。モスルがISに制圧されたのは、2014年6月。ISはどのようにイラク第2の大都市を制圧し、住民統治を進めたのか。IS支配下のモスルで暮らし続けたイラク人の大学教員との長編インタビューを連続掲載する。(聞き手:玉本英子・アジアプレス)※2回目からは会員記事になります。
◆最初はISを歓迎した市民も少なくなかった
サアド・アル・ハヤート氏(47)は、モスル大学で機械工学の指導教員を務めてきた。IS統治下のモスルでの生活や住民から見たISの実態などについて聞いた。
【サアド氏】
忘れもしません。6月5日、木曜日の夜でした。市の東部側から戦闘が始まり、銃声音が鳴り響きました。私たちは家の中に閉じこもっていたので詳しいことは分かりませんが、数日後にイラク軍が敗走、IS戦闘員が勝利を告げたことを知りました。
これまでモスル市民はイラク警察や軍などから嫌がらせや、不当逮捕されるなど、ひどい扱いを受けてきました。その背景は彼らの多くがシーア派だったというのがあります。スンニ派武装勢力の基盤があったモスルでは過激組織メンバーを密かに支援したり、協力を強いられる住民もいたなか、軍や警察は武装組織の支持者や関係者とみなした住民にも酷い仕打ちをしてきました。そのため彼らを追い出してくれたISを歓迎する者は少なからずいました。
私はこれからどうなるのかと、不安な気持ちでいっぱいになりました。たった数日間の戦闘で町のすべてが支配されたのです。悪いことが起きるかもしれないと思いました。ISはイラク軍が置き去りにした銃や車輌、戦車などを接収し、町の統制をし始めました。私は家族とともに、クルド自治区へ逃れました。
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