北朝鮮では、牛は、それはそれは大切にされる生き物である。
貨物自動車もガソリンもまったく不足している北朝鮮では、農場や企業所、軍隊でも、荷車を引き畑を耕してくれる牛は貴重な労働力なのである。
時には、人の命が牛より軽んじられることすらあった。北朝鮮全土を大飢饉が覆い尽くした1990年代後半、飢えた人が空腹に耐えかねて、こっそり牛の尻尾を切って食す事件がしばしば発生した。
牛は国有財産である。個人が勝手に売買、処分されることは許されなかった。それを毀損したとして、見せしめに死刑になることがあったと、多くの脱北者が証言している(秩序維持のための例外的な強硬手段だったと思われるが。
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数年前から、農民たちに牛の個人所有が認められるようになった。まるでトラックを貸し出すように、料金を取って牛をレンタルに出して現金を稼ぐ人が出現している。
老牛は肉にして市場で売る。一般の市場では、これまで牛肉はまったく売られることがなかったのだが、最近は珍しくないという。ただし、あまりにも固くて人気はないそうだ。(石丸次郎)
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