発電施設建設をめぐり、警察によって企業側に実名を提供された近藤ゆり子さん。「共謀罪」法案の行方を懸念する(撮影:栗原佳子)

 

犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」(テロ等準備罪)法案が国会で審議入りした。安倍首相は東京五輪を引き合いに「テロ対策は喫緊の課題」と成立に意欲を示すが、野党は「内心の自由を侵し、監視社会をつくる」などと廃案を訴えている。そんな中、岐阜県大垣市で、警察が住民運動を潰す目的で、市民を犯罪者のように監視していた事件が明らかになり、「共謀罪」捜査の先取りと注目を集めている。(新聞うずみ火 栗原佳子)

 ◆市民の勉強会がターゲットに

事件は2014年7月、朝日新聞の特報によって明らかになった。中部電力の子会社が大垣市で計画していた風力発電施設建設をめぐり、岐阜県警大垣署が反対住民らの実名を挙げ、個人情報を会社側に提供していたという内容だった。

 建設予定地の地元住民は低周波による健康被害や自然環境への影響などを懸念し、勉強会を開いていた。警察はこれを問題視し、13年8月から14年6月までに少なくとも4回、子会社の幹部と協議を重ね、勉強会を企画した地元住民2人と市内に住む2人、計4人の個人情報を提供していた。

その後、住民らが証拠保全手続きで入手した「議事録」には生々しいやりとりが記されていた。例えば13年8月の初めての会合では――。

 警察:「勉強会の主催者らが、風力発電にかかわらず自然に手をいれる行為自体に反対する人物であることをご存知か」

子会社:「以前ゴルフ場建設時にも反対派として活動された」

警察: 「大垣市内に自然破壊につながることは敏感に反対する近藤氏という人物がいるが、ご存知か。東大を中退しており、頭もいい。しゃべりも上手であるから、このような人物とつながるとやっかいになる」「このような人物と法律事務所との連携により、大々的な市民運動へと展開すると御社の事業も進まないことになりかねない。大垣署としても回避したい行為であり、今後情報をやりとりすることにより、平穏な大垣市を維持したいので協力をお願いする」

 警察はその後の協議でも、「近藤氏が風車事業に対して動き出す気配がある」「過激なメンバーが岐阜に応援に入ることが考えられる。身の危険を感じたら110番してください」などと伝えていた。
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