◆鉄くずを拾い家族を支える少年たち
過激派組織「イスラム国」(IS)がいまも町の一部を支配するイラク北部モスル。イラク軍との戦闘が続く。ISは自爆車両突撃や仕掛け爆弾でイラク兵を苦しめる。数カ月の激戦の末、ISはチグリス川東岸の拠点をあいついで失い、町の西部地区にまで後退した。今年2月、私はISが敗走したばかりのモスル南東部ソメル地区に入った。(玉本英子)
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幹線道の検問では軍や警察が機銃を構え、通過する車両に目を光らせていた。ISの宣伝看板は引き倒され、住宅の壁はいたるところ銃弾で穴だらけだった。ISが撤退したとはいえ、すぐ先では黒煙が立ち上り、ときおり銃声も響く。道路脇でしゃがみ込んで空き缶を拾う少年たちがいた。アンワル君(14)は、友人2人とともに、朝から夕方まで鉄くずや銅線を拾い集めている。袋いっぱいだと500~1000ディナール(日本円で50~100円)ほどで業者が買い取ってくれるという。
彼の父親はISのモスル制圧後、職を失った。家族は行政から支給されるおじいさんのわずかな年金に頼ってきた。工場や商店が破壊され、ISは去ったものの仕事が見つからないままだ。アンワル君は毎日、住宅地や空き地で鉄くずを拾って回り、わずかなお金でお茶や野菜などを買って家族に渡している。「父さんに仕事がないから少しでも助けないと」
アンワル君は日本の中学生にあたる年齢だが、ISの統制が厳しくなってから学校へは行っていない。2年半前、ISが市内を支配した当初、小学校ではイラク中央政府指定の共通教科書で授業が行なわれていた。ところがISは独自に教科書を改編。教育内容は徐々に宗教色の強いものとなった。イラクでは宗教について学ぶ授業はこれまでにもあった。ISが特殊だったのは、授業で武器の使い方を教え、聖戦(ジハード)で命をささげて殉教し、異教徒を殺せ、と子どもの心に植え付けようとしたことだ。ISの家族や関係者の子どもは学校に通い続けたが、アンワル君の父親は「息子が戦闘員にさせられてしまう」と登校をやめさせた。
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