◆佐賀では被害者に直接郵送、トラブルは発生せず
実は個別送付で被害者に知らせるとの周知を佐賀労働局は2016年4月に実施している。同県鳥栖市で石綿管を製造していた旧日本エタニットパイプ鳥栖工場で過去に働いてアスベスト関連疾患を発症し、労災認定を受けた人らに資料を送付した。その結果、元労働者4人と元労働者11人の遺族が国賠訴訟を起こしたのだ。
厚労省との話し合いに参加した元労働者で原告の男性(75歳)は「うちには送られて来なかったが、資料を受け取った友人から知った。(賠償金が支払われる可能性があることは)それまでまったく知らなかった」と明かす。

つまり、佐賀労働局による個別送付が成果を上げたということだ。しかも個別送付によるトラブルが発生していないことを厚労省は認めている。それを指摘して支援者の1人が「どうして周知がもれたことによって権利を失うことをもっと心配してくれないんですか」と問うた。
同省は「本日いただいたご意見は持ち帰り、共有させていただきます」というだけだ。
そのため、「せめて検討しますと答えてくださいよ」との意見が相次いだ。

だが、同省は「周知方法については、帰って報告はしますが、この場での回答はできません」と冷たく繰り返す。
しかも「本省の見解としては、佐賀のおこなった周知は適当ではないと考えています」ともいう。その理由を問うと、結局、先ほどの「無用な誤解を招く」との話に無限ループするのだからタチが悪い。

こんな説明にもなっていない説明を延々と国側は繰り返す。会場からはこんな声が上がった。
「患者をどんだけ苦しめるのか。同じやりとりを1年前もしてますよね。持ち帰って検討するって、1年も何やってたのか」
「家族の会」の澤田慎一郎事務局長は「これでは賠償が増えるのが嫌なので積極的に知らせるつもりがないとしか受け止めようがない」と指摘する。

話し合いの中で国側は「予算面での水際作戦などは毛頭考えてございません。訴訟を抑えたいだとかということもまったく考えてないところでございます」と回答している。
「家族の会」東海支部事務局の成田博厚さんは「昨年から国との交渉をみてますが、すでに5~6回目ですよ。毎回勘違いするとまずいからできないと同じ話。明らかに時間稼ぎをしている」と指摘する。
父親の労災被害で現在和解手続き中の男性は「テレビで家族の会を知りました。周知徹底を図って、救済するのが加害者としての責務。国は緊張感がまったくない」と憤慨する。
しばらくして、「役人は時効がほしいんですよ」とぽつりという。

すでに泉南アスベスト訴訟で国の不作為が認定されたにもかかわらず、佐賀労働局の実績により効果が明白な個別送付から不誠実な対応で逃げ続け、新たな不作為を重ねるのか。国の理性が問われている。【井部正之】

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