◆被害者の意見も取り入れ、公開の議論を
しばしば問題化する、建物の改修・解体時などのアスベスト問題について、事業者からの自主的な説明や対応としてどういったことをすればよいかと初めてまとめたこと自体は評価すべきだし、いくつか重要な対応の手順が示されている。
だが、住民からすれば規制として機能するわけではないなど問題点は多い。また事業者の視点からみても、具体性に欠ける部分が多いほか、リスク評価の方法や周知方法、内容の詳細なども十分記載されているとはいえず、使い勝手がよいとは言い難い。
その原因は自治体と事業者など一部の関係者ばかりで十分に時間をかけず、非公開会合でつくったガイドラインだからといわざるを得ない。環境省は指針で「すべての関係者」を「リスクコミュニケーションの主体」と定め、事業者に対し、それらの人びととリスクコミュニケーションをおこなうことで「相互理解を深め信頼関係を構築し、必要に応じて飛散防止対策の質を高め、リスクの低減に役立てること」を求めている。であれば、同省はこの指針の策定においても同様の手続きを踏む必要があったはずだ。
事実、同省が2月に開催したフォーラムでは被害者団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の古川和子会長らは「私たち被害者も委員に入れて、意見を聞いてほしい」と要望している。地域住民や被害者団体、NGOを検討会委員にするよう求める意見はパブコメで136団体・個人(82.9%)と多い。非公開会合で検討を続けたことも「リスクコミュニケーション」のあるべき姿からはほど遠い。同省は改めて、そうした利害関係者を委員に迎え、公開の場で、より良いガイドラインとすべく改訂に望むべきではないか。
新たなアスベスト建材が見つかった場合、いったん工事を停止し、リスクコミュニケーションの手続きを最初からやり直せと指針で求めている以上、環境省は自ら範を示すのが当然だろう。同省がこの件で自ら適正なリスクコミュニケーションをしない限り、事業者は誰も同省を信用しないだろうし、この指針も捨て置かれることになりかねない。【井部正之】