米兵に詰め寄るバグダッド市民。2003年4月、撮影綿井健陽

 

「殺し、殺される」戦場に、人はなぜ自ら赴くのか。そこに自由な「選択」はあるのだろうか。
志願制である米軍では、人員確保が課題となっており、貧困層の人々、女性、移民をターゲットに勧誘を行っている。教育、医療、福祉分野の補助金や助成金予算が削減されるなか、生存権さえ脅かされている貧困層の人々の選択肢は狭められている。ファストフード店などでの低賃金労働にしか就くことのできない若者が、「生きる手段」として米軍に入隊している(1)。

彼らが志願する主な理由は、高等教育の学費(2)と医療保険のためである。学資ローンが払えなくなった大学生が、借金返済のために州兵となる場合も少なくない。「貧困徴兵」あるいは「経済的徴兵制」と指摘される(3)。現在の米軍では、女性も軍内でのほとんどの任務に就くことが可能となり、現役軍人の15%を構成している(4)。女性兵士のうち、行政・衛生分野の任務にあたっているのは半数以下で、憲兵や戦艦、戦闘機、空中給油などの戦闘支援任務に携わっている。

移民として強制送還の不安のなかで不安定な生活を強いられている人々も、軍に「志願」している。2002 年には、ブッシュ政権によって、入隊と引き換えに市民権が取得できるという移民法(5)が制定され、米国市民でない現役兵士は2003年で3万7401人に及んだ。さらに、2007年には、ビザをもたない不法移民も、入隊することで市民権獲得の手続を取ることが可能になった。国防総省によると、毎年約8000人の非米国市民が入隊している。                                                                      「民間企業」によって戦地に派遣される人も少なくない。米国は軍事機能の「民営化」を進めており、食料や物資の調達・輸送から、情報収集、技術指導、警護活動まで数多の業務を「民間人」が担っている。イラクで活動する、国務省と契約した民間軍事会社職員は19万4千人(2008年4月)に上る。彼らの中にも貧困にあえぐ人々は少なくない。

彼らは「民間人」であるが、緊迫した危険な戦場にも派遣される。現地で採用される地元の人々もいる。彼らは米軍に委託された業務に就くが、その間に負傷したとしても、復員軍人省が提供するサービスからは排除される(6)。彼らは帰還兵にも、戦死傷者にも数えられない。

「まともな暮らしがしたい」という切実な思いで入隊した人が、そのささやかな夢を実現することは難しい。戦場に派遣される彼らは、軍事作戦では必ず計算される消耗率の対象となる。もとより、契約期間中死傷することなく無事に帰還できる保障はない。
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