帰還兵の自殺14年は1日平均20名

現役兵士の自殺率は、2004~2008年の平均は10万人中20.2人で、1977~2003年までの平均である12.2人からほぼ倍増している。帰還兵の自殺リスクは、民間人と比較して2001年以降一貫して増加している。

2014年には、平均して1日に20名が自殺しており、一般の人より自殺のリスクは21%高い。退役軍人を対象とした医療サービスを利用している人であっても20名のうち6名が自殺している(6)。

心身の負傷と後遺症によって、帰還兵は社会生活を営むことが困難になる。負傷して四肢や聴覚、視力を失っていれば、元の職場への復帰は困難であろう。心に傷を負った帰還兵は、薬物やアルコールに依存することが多い。これらの行動は、社会生活をさらに困難なものとする。失業に至りやすく、家族の生活基盤も危うくする。

全人口に占める帰還兵の割合は7%だが、ホームレスに占める割合は13%に及ぶという(7)。復員軍人省による2012年の報告書によれば、イラクとアフガンからの帰還兵、および女性帰還兵はホームレスになる傾向が強い。ホームレスとなっている帰還兵の半数は、深刻な精神疾患を患っており、70%には薬物乱用の問題があった(8)。

帰還後、以前のようには自分の子どもを愛することができなくなる母親もいる。子どもを産み慈しむ行為と、子どもを含めた「敵」を傷つける任務との隔たりは大きい。

州兵として派遣され運転手の任務にあたっていたアシュレイ・プレンさんは、派兵されたイラクで激しい銃撃戦のさなかに負傷した男性兵士の応急処置をし、応戦した。彼女は、顔が見えるほどの距離にいた「敵」を撃った。彼女は、三人を殺害したと思っている。

米軍は、彼女の「勇気ある行動」を称えて、「ブロンズ・スター」勲章を授与した。帰国後、妊娠をきっかけに彼女の精神状態は悪化し、出産後も感情の爆発をコントロールできず、子育てできない(9)。(続く)

(1)  2,797名のイラク帰還兵を対象として2005年11月から2006年6月に行なわれた米軍医療施設における派遣後スクリーニング調査によるデータにもとづく。Shira Maguen et al., “The Impact of Reported Direct and Indirect Killing on Mental Health Symptoms in Iraq War Veterans,” Journal of Traumatic Stress, Vol. 23, No. 1 (February 2010), pp. 88-90.
(2) Robert Rosenheck and Alan Fontana, “Transgenerational Effects of Abusive Violence on the Children of Vietnam Combat Veterans,” Journal of Traumatic Stress, Vol. 11, No. 4 (1998), p. 732.
(3) 布施祐二『経済的徴兵制』集英社、2015年、184~186頁。
(4) Brett T. Litz, The Unique Circumstances and Mental Health Impact of the Wars in Afghanistan and Iraq, http://www.ptsdsupport.net/impactofwar_iraq.html(2013年6月17日)
(5) 2007年11月~2008年5月に行なわれた、義務的な派遣前医学判定調査の際に行なわれた2543名のニュージャージー州兵のデータ調査による。25%近くが少なくとも1回以上イラクあるいはアフガニスタンに派兵された経験があった。複数回派兵された兵士は、派兵されたことのない兵士と比べて、PTSDや深刻なうつ状態と判定されるのが3倍以上、慢性的な痛みは2倍以上、対象の90%の人は、一般的な身体的機能を下回っていた。Anna Kline et al., “Effects of Repeated Deployment to Iraq and Afghanistan on the Health of New Jersey Army National Guard Troops: Implication for Military Readiness,” American Journal of Public Health, Vol. 100, No. 2 (February 2010), pp. 276-283.
(6) Suicide Among Veterans and Other Americans 2001–2014, Office of Suicide Prevention 3 August 2016, U.S. Department of Veterans Affairs,p.4.
(7) 米国住宅都市開発省(Department of Housing and Urban Development)は、ある所定の日に6万2069人の帰還兵がホームレスとして路上にあり、1年間では、この数はおよそ2倍になると推計している。
(8) Department of Veterans Affairs Office of Inspector General, Homeless Incidence and Risk Factors for Becoming Homeless in Veterans, Report No. 11-03428-173, May 4, 2012.
(9)  高倉基『母親は兵士になった~アメリカ社会の闇』(日本放送出版協会、2010年)、169~189頁。

<「被害者」としての米軍兵士たち>記事一覧

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