兵士となった家族が派兵されることによる別離は、親しい家族の日常生活に大きな変化を引き起こす。とりわけ、配偶者や子ども、心身に障害があるなど特別のケアを必要とする家族は、大きな影響を受ける。
家族が危険な戦場に派遣されると、残された家族は、「怪我をしていないか、無事に帰ってくることができるのか」と心配になる。そして、その大きな不安は、配偶者・パートナーや子ども自身の生活全体にも大きな影響を及ぼす。
父親が米軍兵士としてアフガニスタンに派兵された17歳のエリカは、「クリスマスをお祝いしたくありません」と言う。「父が戦闘の只中にあるかもしれないのに、私たちはどうして楽しくしていられるでしょう。私が笑ったり、歌ったりしているその瞬間に、お父さんは、撃たれているかもしれないし、爆撃されているかもしれない」(1)。
増える子どもへの虐待
戦闘地域に派遣された兵士を配偶者にもつ人のストレスは、子どもへの虐待を増加させる。配偶者の在宅時と比較して、残された妻による子どもへの虐待は3倍に増加する。もっともよく見られる虐待は育児放棄(ネグレクト)で、夫の派遣期間中、妻によるネグレクトの割合は4倍、身体的虐待の割合は2倍に増加した。
2001 年9 月から2004年12月の期間に少なくとも一回戦闘地域に派遣されたアメリカ軍兵士がいる1777の家族を対象とした調査によると、1万8588人の親が子どもを虐待していた。派遣されていない期間と比べて派遣期間中は虐待の割合は42%増加した(2)。
子どもにとって、自分を守り育ててくれる親がそばにいないことの不安は大きい。職業軍人家庭のように、父親・母親の不在が日常生活に組み込まれている場合でも、子どもたち、とりわけ幼い子どもにとっては大きな環境の変化であり、負担は大きく、泣き止まないなど不安定な精神状態になる。
家庭での教育方法も親の不在によって変化を迫られる(3)。学齢に達しないような幼い子どもは、親が家からいなくなることについて、自分が原因だと感じてしまう。しつけの難しい年頃の子どもがいる場合には、さらに深刻な問題である。思春期の子どもには、心身の発達途上であることから不確実性があるが、親の派兵はさらに不安定さを増す(4)。
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