■襲撃経験、仲間の死…辛いトラウマに
平和維持軍兵士は、主観的には現地の人々の平和のために派兵されているのであるが、状況によっては全ての紛争当事者から敵視されることもありうる(3)。アフガニスタンに派遣されていたある部隊では、兵士の46%が襲撃された経験があり、37%は仲間の死を目の当たりにし、21%は反対勢力に対して交戦した経験があった。
このような深刻な経験をした兵士にとって、ドイツへの帰国は大きな環境の変化を意味する。個々の帰還兵の経験は多様で、生活状況や、夫婦関係、子どもとの関係、職業、価値観も様々である。
価値観が変わってしまった人や、ドイツ社会で疎外感に苛まれたり、魂に傷を負ったと感じる人もある。アフガニスタンからの帰還兵を対象としたアンケート調査に、15%の人が「攻撃的になった」、10%の人は「以前の環境になじめない」と回答している。
派遣経験から、自信を強めたり、人生により高い意義を見いだしたりといったポジティブな変化を感じる人もあるが、ネガティブな変化は当事者とその親しい人々の人生を大きく左右する(4)。
慣れ親しんだ生活、自身への信頼、さらにはパートナーへの愛情も砕かれてしまう。特に、交戦を経験した帰還兵の32%(交戦を経験をしなかった帰還兵の場合18%)が、そのような変化を感じている(5)。
多くの帰還兵が、暴力的な経験について家庭でも駐屯地でも話そうとしないし、自らのトラウマとなった経験については、全く口をつぐんでしまう人は少なくない(6)。帰還兵が戦場での経験を家族や友人に共感してもらえず、孤立に陥ることは珍しくない(7)。このように自らの重大な経験を身近な人と分かち合うことができないことは、兵士自身のみならず家族や身近な人々にとっても苦悩となる。
ドイツ連邦軍医少佐であったメラニーはアフガニスタンに2回派遣された。巡回に出ている時だけでなく、駐屯地にいる時も常に襲撃される危険があり、彼女は、強い緊張を感じていた。医務室にもサソリがいるような環境は彼女にとっては厳しいもので、攻撃されないように明かりをつけることができなかった夜間は特に辛かった。
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