◆大臣は範囲広げよと指摘
実施を迫るとともに、泉南訴訟の原告と同じように、労災保険受給者だけでなく、石綿肺の所見がある人(じん肺管理区分2以上の決定を受けた人)を個別周知の対象にすべきとの指摘である。
山越局長が「労災保険受給者への周知を図っていくと考えている」と答弁。
これに対し倉林議員は「それはさっき聞いた。きちんと広めて欲しいということで管理区分2以上も周知すべき。なんで1つも答えられない」と迫る。山越局長は「国賠で和解手続きに進む対象になり得る方に周知を行っていきたいと検討している」とあいまいに答えた。
倉林議員は「(泉南原告と同様に対象に)なり得る方に情報提供を進めていくということでしっかり進めていただきたい」と改めて指摘した。
2004年の筑豊じん肺訴訟最高裁判決でも国の不作為責任が認められており、泉南訴訟と同様に訴訟ベースでの和解手続きが進められている。この件では経済産業省がポスターやパンフレットを判決から10年を機に文字を大きくしたり、わかりやすく作り直している。
倉林議員はこれに触れ、「ええところはしっかり学んで、しっかり伝わるような周知をしていただきたい」とたたみ掛けた。
塩崎大臣は「たしかに最高裁の判決は重たい判決ですから、これに従って我々は損害賠償請求があれば、お応えする。できるかぎり応じていただけるように、経産省のやり方も参考にしながらやっていきたい」と答え、さらにこう続けた。
「さきほど明確ではなかったかもわかりませんけれども、じん肺管理区分決定通知を受けた方々もおられて、労災は受けているわけではないですけど、その手前の方々もおられるので、その方々も含めて。労災を受けているかたは当然。いずれにしても、この2つの皆さんがたに送るという方向で検討してまいります」
すでに述べたように、山越局長はあくまで労災保険受給者に対して個別に周知することを検討するとの回答だった。これに対し、塩崎大臣は労災保険受給者だけでなく、じん肺管理区分決定2以上を受けた人も対象にし、泉南訴訟の原告と同じ条件の人びとに個別に周知する「方向で検討」との方針だ。
行政が極力対象範囲を狭めようとしているのに対し、政治の側が拒否した格好だ。個別周知の「方向で検討」するというのは実質的にそうせよとの塩崎大臣からのメッセージといってよい。
この委員会質疑から少し前になるが、5月24日、厚労省労働基準局総務課石綿対策室の矢野裕介・企画調整係長は「要請の中でお答えしたとおり、持ち帰っていろいろ検討させていただいている。最終的にどういう結論になるかの見通しはお答えできない」と少なくとも検討していることは明かした。
矢野係長は「迅速に検討して回答する」とも話していたが、すでに被害者団体との交渉から10日あまりが経過している。相変わらず訴訟を減らすべく不誠実な立ち回りを続けるのか。同省の対応が注目される。【井部正之/アジアプレス】
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