◆ようやく当たり前のことをすると決めたにすぎない
では実際に個別周知というのは誰を対象とし、どのように実施するのか。同省の矢野係長に尋ねると、「詳細を詰めている段階としかいえない」と言葉を濁す。
だが、少なくとも塩崎大臣が答弁した労災保険受給者とじん肺管理区分決定を受けた者の両者には送るのかと質すと、「その方向で検討してます」と答えた。
泉南訴訟の原告と同じ条件となるのかと念のため確認すると、「関係しうる人に通知をお届けするということが大臣の答弁なので、そうなるよう対応の準備を進めている」と明かした。
送付の範囲を狭めるというのではなく、より広く送るとの理解でよいかとさらに念を押すと、「周知する範囲を狭めたいということはまったくなくて、可能な限りいろんな選択肢で、いろんな材料を使って、必要なひとに必要な情報をお届けするためにいろいろとやっているところです」と応じた。
今回の方針転換は、同省を評価するべき内容ではなく、ようやく当たり前のことをすると決めたにすぎない。むしろ泉南訴訟の最高裁判決後、同省が2年以上もそれをしないまま放置してきたこと、また、被害者団体から指摘されても1年以上も拒否し続けてきたことが問題だろう。
いつどのように方針変更が決まったのかなどを聞いたが、「行政内部の意志決定の過程は回答を控えさせていただきます」というのみだ。
現在のリーフレットも大きな文字にするなど内容も刷新した上で「遅くとも今年度中」には該当者に個別に送付する方針だ。矢野係長はこうも言っていた。
「(個別周知を)やるという方向に舵を切ったわけですから、先日も賠償金を払いたくないんじゃないかとかそういったご指摘もあったが、そういったことはまったくなくて、技術的に可能な範囲で、和解要件に合う方々に過不足なくお届けできるようやりたいという本当にそれだけです」
厚労省は1年以上も個別送付を拒否して恥をかいた上、泉南を訪れて原告に謝罪した塩崎大臣の顔に泥を塗った。それが今回ようやく個別周知に踏み切る方針に変わった。担当者の弁明は本音なのかもしれないが、重要なのは組織としての対応である。同省はこの間の反省をふまえ、どこまで丁寧かつ徹底的な周知を実施するのか。そこに信頼回復できるかどうかが掛かっていよう。【井部正之/アジアプレス】
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