◆通院先を減らす設問?

その上で質問項目の妥当性などが議論されたのだが、これもひどいものだった。たとえば、当初の質問案では複数の医療機関に通院している場合であっても「2つ目まで」しか回答を求めない方針だった。

長松康子委員(聖路加国際大学大学院看護学研究科国際看護学准教授)がこれに反対し、「がんの治療と呼吸器の治療だけで(通院先は)2カ所になってしまう。(中皮腫・アスベスト疾患・患者と)家族の会では3つは掛かりなさいといっている。うつで病院行ったりすれば、軽く3つ4つ行く。認定疾患のためにどのくらい医療機関に掛かってますかと項目は5つくらい挙げてはいかがですか」と求めた。

 ところが、事務局側は最初から「まったく関係ないような通院は基本的には今の医療制度ではカバーしているという設定になってございませんので。基本的には(聞く必要はない)」などと記入項目を2か所より増やすことを拒否した。

これに対し、長松委員は「がんの病院のほか、歯医者に行くのに(中皮腫などで)歩くのがつらいからタクシーで歯医者に行って、さらに掛かり付け医に行くとなれば、これだけで3カ所。(記名方式で回答者が圧力を感じるのに)個人情報まで抜き出して(アンケートを)やるというのに、(掛かっている医療機関を)2つしか聞いてないというのはいかがなものか」と具体例を挙げて必要性を訴えた。

すると、このアンケート項目を作った上月正博委員(東北大学大学院医学研究科障害科学専攻内部障害学分野教授)が「項目数が増えれば(回答の)信頼性下がる」など、医療機関の数を3つまでとすべしと主張。

だが、長松委員が「項目が足りなくて書ききれないなら意味がない」として5項目とするよう改めて求めた。

祖父江友孝委員長(大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座環境医学教授)が国側に尋ねると、「なかなか医療機関の数をきめて書かせるのは難しそうだなと。認定疾病に関する治療のためというところはきちんと押さえたうえで、1つ2つ主なものを書いてもらって、残りのものをまとめて書いてもらうというのはどうか」との折衷案を出した。

最終的にはどうやら国側の判断となるようだが、最良の内容とするなら、5カ所の病院について記載し、さらにほかにも通院している医療機関があるなら記載してほしいとすべきではないか。そんな当たり前の聞き方がなぜ難しいのか疑問である。通院する病院数を意図的に減らし、通院などで支払う費用を少なくしようという意図が見え透いている。

ほかの質問項目でも同様の問題がある。

たとえば、現在の制度で何が不十分だと感じているのかといった質問や、実際にどのような費用が制度上カバーされていないのかといった内容はごく一部しか質問項目に入っていない。

一方、差額ベッド代などを金額含めてこと細かに聞いている。しかも、その理由として「周囲の療養者に気兼ねない環境で療養するため」などいかにも療養環境を自ら良くするために選んだかのような選択肢ばかりが並ぶ。現実には差額ベッド代が掛からない部屋が空いてないとの理由で支払わざるを得ない場合が少なくないのに、そうした選択肢はない。

こうした設問をみていると、認定を受けた被害者が実際には経済的余裕があるのに、そうでないと言っているかのような結論を最初から導き出そうとしているようにしか思えない。
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