◆佐賀では4人が除斥と弁護士

今年5月の「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」らとの交渉のようす。厚生労働省が周知徹底をおこたったために請求権が失われた事例が少なくとも2件存在した。(都内にて撮影・井部正之)

工場などで働いてアスベスト関連疾患を発症した元労働者らに対する国の賠償責任について、厚生労働省が周知徹底をおこたったために請求権が失われた事例が少なくとも2件存在することが判明した。

この賠償責任とは、2014年10月に確定した大阪・泉南アスベスト国賠訴訟最高裁判決により確定したものだ。同12月に賠償金額の計算などのために大阪高裁に差し戻しされた第1陣原告と国が和解。同様の被害を受けた元労働者らが提訴し、一定の条件を満たせば、国は速やかに和解することに合意した。

第1陣原告との和解条項の1つに国が被害者に対し、同様の和解ができるよう周知徹底することが含まれている。厚労省は労働災害の受給者名簿をはじめ、“対象者リスト”といってよい資料を持っている。国賠訴訟で敗訴し、その責任が断罪された以上、国は被害者に対し、徹底した周知をする義務がある。そうした資料を活用するのは当然だろう。

ところが、同省は個別に請求権について周知することを拒否してきた。5月末にようやく方針を変更したが、和解から2年半が経過した現在もまだ実施にいたっていない。

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会(古川和子会長)らは6月8日、厚労省労働基準局総務課石綿対策室の担当者と面会し、早急かつ徹底的な個別周知の実施を要請した。

年度内には実施するとの国側の回答に、鳥栖工場労働者アスベスト被害国会賠償請求訴訟弁護団(団長:伊黒忠昭弁護士)の榮京子弁護士が「佐賀でも(死後20年で請求権が失われる)除斥にかかっていて、諦めた方もいらっしゃった。法的に無理なのでと断らなくてはいけない現実があった。一刻も早く周知することが重要。漏れなく救済するとの前提でやっていただきたい」と求めた。

佐賀労働局が2015年に個別周知をしたことで始まった旧日本エタニットパイプ鳥栖工場の元労働者らによる集団訴訟では「相談があったうち、4人が除斥でした」と榮弁護士は明かす。
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