ハマムで出遭ったマリアム(37)は売春罪で刑務所に服役中、ザルミーナと知り合った。(2002年3月撮影:玉本英子)

彼女は、前日7人の男たちを相手にして120万アフガニ(約4700 円)を手に入れていた。
10 年前に夫を病気で亡くし、家族を養うためにタリバン政権時代から売春をつづけてきた。

彼女にはまだ幼い娘がひとりいて、将来はアメリカに留学させるのが夢なのだと話した。
多くのイスラム諸国と同様に、タリバン政権も売春を厳しく取り締まっていた。

一方で、売春は地下で厳然と存在していた。
統計はないもの、かなりの数の女性が売春や、その斡旋に従事しているという。

アルカイダに参加していたアラブ人義勇兵の中にも常連客がいた、とも教えてくれた。
タリバン時代に4回逮捕されたマリアムは、延べ1年4か月、ウェラヤット刑務所に服役した。

そこで彼女は4か月のあいだザルミーナと一緒に過ごしたのだという。
ザルミーナは自分が売春をやっていたことをマリアムに話していた。

刑務所での生活は過酷だった。
刑務官たちはあたりまえのようにお金を要求し、お金がないと食事すら与えられない。

男性刑務官に強姦されて妊娠したものさえいたという。
そんななかでザルミーナは監舎内で育てていた双子の赤ん坊に食べ物を与えるため、仲間の受刑者たちにすがりつき、お金の工面に奔走していた。
そして礼拝を欠かさなかったという。

閉ざされた日々の暮らしのなかで、ザルミーナは祈り続けていた。

マリアムはタリバン時代に売春で捕まり、ムチ打ちの刑を受けた。足に残る傷跡は、刑務所で足枷をはめられていたときにできたものという。(2002年3月撮影:玉本英子)

マリアムは今でも毎日、神様に祈ると話した。
何を祈るのかきいてみると、彼女は天を見上げてこう言った。
「許してください、とお願いするの。神様は私のこれまでの境遇を知っているから、こんな仕事をしてもきっと許してくださるはず」

現在の暫定政権の法律では、売春(または買春)行為をした場合は、24時間から1年間の不定期刑で服役することになる。
しかしタリバン政権下では、夫のいる女性が売春をすれば、絞首刑か石投げの刑(死ぬまで群集が小石を投げつづける)に処せられた。

マリアムは未亡人だったため、死刑はまぬがれた。しかし獄中で100回のムチ打ち刑を受けていた。
革製のムチ打ちは皮膚がちぎれるほど強力で、1週間は立ち上がることができなかったという。

マリアムはそれが原因でいまも精神が不安定なのだと、まわりの売春婦仲間が教えてくれた。
売春婦はアフガン社会では、人間としては扱われない。

それでも、戦乱で生きるすべを失ったため売春を余儀なくされる女性も少なくなかった。
そして、厳格なイスラム社会にあって、買春をする男がいるというのもまた、この国の現実だった。(つづく)【玉本英子】

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