◆ISに協力した部族やグループ
「イスラム国」(IS)が約3年にわたって支配したイラク・モスル。ISが継続して統治を維持できたのは、地元のスンニ派部族を巧みに利用したことも大きい。大学教員のサアド・アル・ハヤート氏(47歳)は、ISがモスルで支配基盤を固めた背景について話す。サアド氏との連続インタビュー(8回目)。(聞き手:玉本英子・アジアプレス)

モスル市内に残されたイスラム国(IS)の戦車。ISはシリア軍から奪った戦車をイラクに移送したり、またイラク軍の武器をシリアで運用するなどしていた。(2017年2月撮影・モスル市内・玉本英子)

【サアド氏】
2003年のフセイン政権崩壊以降、モスルはずっと不安定な状況が続いてきました。アルカイダ系組織やその他の様々な武装グループが入り込み、それに市民が利用され、巻き込まれました。治安部隊との戦闘のはざまで多くの人が命を落としました。そして、2014年にはイスラム国(IS)が統治を宣言するに至ってしまいます。

ISがモスルでの支配を2年半以上も続けられたのは、力ずくの統治だけというわけではありません。地元の人たちがISに協力したからだといえます。ただ、仕事がなく、生きるため、家族の生活のためにISに協力せざるを得なかったのです。多くは普通の人たちです。

イスラム国(IS)がイラク北部の大都市モスルを制圧したのは2014年6月。当時、シーア派の影響力が強まった治安部隊の逮捕や拷問に不満を抱く住民も少なくなく、ISを歓迎した住民もいた。(2015年・IS映像)

そして、イラクでは重要な位置を占める、地元部族によるISへの協力もありました。アルジェーシ、アルブンケーウィド、アルハヤーニ…。彼らはモスル郊外に勢力を持つアラブ人の有力部族で、モスル市内にも多く暮らしていました。彼らは米軍が駐留していた頃から、アルカイダ系武装組織の協力者でもありました。こうした部族がISを支持したことで、地方の隅々にまで統治基盤を築くことができたといえます。

そして、ナクシュバンディという宗派グループもいました。多くがモスルの人たちで、サダムフセイン時代に、バース党で活動していた人たちです。2014年に、ISがモスルを攻撃した当初、ISと一緒に、銃を手にしていました。(※ナクシュバンディ教団:スーフィズム系のイスラム宗派で、フセイン大統領時代は政権支持派だった。当初、シーア派主導のマリキ政権に対しISと共闘したが、のちに対立)

イスラム国(IS)が短期間で支配基盤を固めた背景には、地元部族を取り込んだことが大きい。武力や金銭、地位の保障で部族を恭順させていった。写真はISがモスル一帯の部族長を集めて、バグダディ指導者に忠誠を誓わせる様子。(2015年・IS映像)

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