◆ISに協力した部族やグループ
「イスラム国」(IS)が約3年にわたって支配したイラク・モスル。ISが継続して統治を維持できたのは、地元のスンニ派部族を巧みに利用したことも大きい。大学教員のサアド・アル・ハヤート氏(47歳)は、ISがモスルで支配基盤を固めた背景について話す。サアド氏との連続インタビュー(8回目)。(聞き手:玉本英子・アジアプレス)
【サアド氏】
2003年のフセイン政権崩壊以降、モスルはずっと不安定な状況が続いてきました。アルカイダ系組織やその他の様々な武装グループが入り込み、それに市民が利用され、巻き込まれました。治安部隊との戦闘のはざまで多くの人が命を落としました。そして、2014年にはイスラム国(IS)が統治を宣言するに至ってしまいます。
ISがモスルでの支配を2年半以上も続けられたのは、力ずくの統治だけというわけではありません。地元の人たちがISに協力したからだといえます。ただ、仕事がなく、生きるため、家族の生活のためにISに協力せざるを得なかったのです。多くは普通の人たちです。
そして、イラクでは重要な位置を占める、地元部族によるISへの協力もありました。アルジェーシ、アルブンケーウィド、アルハヤーニ…。彼らはモスル郊外に勢力を持つアラブ人の有力部族で、モスル市内にも多く暮らしていました。彼らは米軍が駐留していた頃から、アルカイダ系武装組織の協力者でもありました。こうした部族がISを支持したことで、地方の隅々にまで統治基盤を築くことができたといえます。
そして、ナクシュバンディという宗派グループもいました。多くがモスルの人たちで、サダムフセイン時代に、バース党で活動していた人たちです。2014年に、ISがモスルを攻撃した当初、ISと一緒に、銃を手にしていました。(※ナクシュバンディ教団:スーフィズム系のイスラム宗派で、フセイン大統領時代は政権支持派だった。当初、シーア派主導のマリキ政権に対しISと共闘したが、のちに対立)
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