道徳教科書の「たいせつな国旗と国家」と題した項目

 

来年度から小学校で「教科」に格上げされることとなった「道徳」。戦後70年を経て初めて教科化されるに至ったその過程には、保守派の一貫した願いと、それを受けた安倍首相の強い働きかけがあった。(新聞うずみ火/栗原佳子)

◆態度変えた《中教審》

現行の「道徳の時間」は「教科外の活動」という扱い。教科書はなく、検定を受けない「副読本」や教師が作った教材などが使われている。それが今後は、国の検定した教科書によって、子どもの「心の中」が評価対象になる。成績は5段階評価などではなく記述式とされる。

戦前は教育勅語の趣旨に基づき編さんされた「修身」の国定教科書により、道徳教育が行われていた。戦後、修身は撤廃されたが、復活を目指す動きは保守派の中に一貫してあった。1958年に「道徳の時間」が導入されたのもその一つ。だが、「戦前回帰」という警戒感は強く、教科化は実現しなかった。

それが、安倍政権で大きく動く。2006年、首相になった安倍氏は「教育再生」を重要テーマに掲げた。その大きな柱の一つが道徳の教科化だった。首相肝いりで設置された「教育再生会議」が「道徳の教科化」を提言。しかしこのときは文科相の諮問機関、中央教育審議会(中教審)が「道徳は教科になじまない」と見送った。

安倍氏が13年、首相に返り咲くと「教育再生実行会議」、文科省に設置した「道徳教育の充実に関する懇談会」が相次いで教科化を打ち出し、中教審も一転、教科化を答申。中教審委員を入れ替えたことが「功を奏した」とされている。

教科化が決まったことで、学習指導要領も改訂された。学年ごとに身につけるべきとする19~22の徳目(項目)が定められ、全て網羅されていなければ検定には合格できない。項目は前述の「我が国の伝統と文化の尊重、国を愛する態度」をはじめ「畏敬の念」「家族愛」「公共の精神」「順法精神」「感謝」「礼儀」など。「人権」「平和」「共生」は含まれていない。

検定に合格した8社の1年から6年生用の道徳教科書

◆「すごい日本」強調

ふんだんにあしらわれたイラストや写真。各社の教科書を手に取ると、まずビジュアルのインパクトで引きつけられる。「日の丸」も目につく。「国旗や国歌を大切にするきもちのあらわし方」として「国旗」は「しせいを正し、ぼうしをとって、れいをします」、「国歌」は「みんなでいっしょに歌います」と記述する教科書も。「日本人が世界に広めたすごいもの」などと、「日本」や「日本人」を強調する教材も少なくない。(続く)

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