「下町ボブスレー」の教材に登場する安倍首相

 

「パン屋」を「和菓子店」に、「アスレチック公園」を「和楽器店」に。来年度から教科に格上げされることが決まった「道徳」の教科書採択作業がこの夏、全国各地で本格化する。しのぎを削る教科書会社各社は、検定意見への「忖度」の結果、どのような「道徳」教科書を世に送り出すのか。(新聞うずみ火/栗原佳子)

◆「教育出版」の特色

検定意見がついたのは「パン屋」「アスレチック公園」のような事例だけではない。どの教科書会社も「偉人」を多く載せているが、ユダヤ人へのビザ発行で知られる外交官の杉原千畝の人物伝は4社が取り上げ、3社に修正意見がついた。

例えば、杉原がユダヤ人へのビザ発行について外務省に問い合わせた理由について光村図書は申請時、「日本も1936年(昭和11年)にナチスが政権を取っていたドイツと協定を結んでいて、ユダヤ人にビザを発行することが難しかった」としていた。しかし「児童が誤解するおそれのある表現である(当時の日本の外交政策)という検定意見がつき、「領事館におし寄せたユダヤ人の中には、ビザをもらう条件を満たしていない人も多くふくまれていた」と変更した。

「文科省は戦前の日本とナチス政権との友好関係の記述を削除させたのです。こう直しなさいとは言いません。教科書会社は忖度しすぎて、ビザが発行できない理由をユダヤ人のせいにしてしまいました。日本への悪い印象を削除させ、いいイメージだけを受け付けようという意図がみえる露骨な検定でした」

元中学社会科教師で、教科書問題に長年かかわってきた「子どもたちに渡すな!あぶない教科書大阪の会」の相可文代さんはこう説明する。

相可さんは教科書展示会で各社の教科書を読み比べてきた。学習指導要領に外れないよう各社とも傾向は似ているが、その中で、教育出版の教科書は「最も愛国的傾向が強く、安倍政権に迎合している」という。

教育出版は大手の教科書会社。決してこうした傾向が全てにわたるわけではないが、道徳の教科書は、編著者に、いわゆる「つくる会」系の育鵬社が発行した「道徳本」の関係者が多数入っている。例えば、武蔵大学教授の貝塚茂樹氏は育鵬社が中学歴史教科書のパイロット版として発行した「13歳からの道徳教科書」(12年)の編集者で、岐阜大学大学院教授の柳沼良太氏は小学校道徳教科書のパイロット版、育鵬社の「はじめての道徳教科書」(同)の編著者だった。
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