過去にアスベストを使った製品を作ってきた工場では、労働者のみならず、周辺の住民にも中皮腫などの被害が生じている。アスベストを吸ってからおよそ20~40年後に発症するアスベスト被害。労災認定を受けられるかをはじめ、被害者間で様々な格差が生じ、問題になっているが、その不安の解消のため実施している健康調査でさえ、“格差”が存在するというのだ。
◆「石綿診断 先着100人」
〈過去に石綿(アスベスト)にばく露した可能性のある方にし、石綿検診を実施します。定員100人 (先着順)〉
こんな告知がさいたま市の広報誌「市報さいたま」(7月号)に掲載された。
8月3日、広報誌の間に挟んであったという1枚刷りのパンフレットをさいたま市保健所で見た被害者団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」関東支部世話人の松島恵一さんは憤る。
「なんだ、このパンフは! 工場の名前も実際に被害者が出ていることすら書いてない。これじゃ何の検診かなんてわからない。それに、この先着100人ってなんだ。イベントの告知か。ふざけるな!」
アスベストの問題は2005年6月末、兵庫県尼崎市のクボタ旧神崎工場周辺で職業的な経歴がない周辺住民に中皮腫被害が出ていたことが判明し、大きく注目されるようになった。それまで職業性の健康被害と考えられていたアスベスト被害が、工場の周辺住民も含めた“公害”といってよい被害を生みだしていたことから「クボタショック」と呼ばれている。
あまり知られていないことだが、じつはさいたま市にはクボタの工場よりも以前から、もっとも発ガン性の高いクロシドライト(青石綿)を使ってアスベスト含有の水道管を作り始め、クボタが操業を止めた後までアスベストを使い続けた工場がある。それが「日本 エタニットパイプ」(現リソルホールディングス)大宮工場である。当然ながら、工場では多数の労働者にアスベスト被害が発生していた。
さいたま市は2016年に同工場周辺に住んでいた、職業的にアスベストを扱ったことのない2人が中皮腫を発症していたとの報道を受け、環境省の委託を受け、今年度からアスベストに曝露した可能性のある人びとに対する健康調査を実施すると発表した。
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