暑さを凌ぐために汚染された海で泳ぐ住民(2017年7月、ガザ市で撮影 土井敏邦)

 

イスラエルによる電力供給が大幅にカットされ、ガザ地区の人々の日常生活が脅かされている。1日わずか数時間しか電気が使えない暮らしとはどういうものなのか。高温多湿の夏を迎え、電気と水を奪われたガザの人々の苦境をリポートする。(ジャーナリスト・土井敏邦)

◆高層アパート住民の“地獄”

30度を超える猛暑の中、1日2~4時間しか電気のない生活。発電機や充電器も買えない貧しい庶民にとって地獄のような日々だ。とりわけ高層アパートの住民にとって最も深刻なのは日中の暑さと水不足である。

市内中心部にある12階建てのアパートで暮らす老夫婦の家を停電中の昼間に訪ねた。中に入ると、暑さと湿気で汗が噴き出してきた。しかし電気がないため、エアコンはおろか扇風機も使えない。台所の水道蛇口を開けても水は出てこない。

「1日で電気があるのはせいぜい2時間です。それでは50世帯が暮らすこのアパートの水タンクをいっぱいにすることなんてできません」「シャワーですか?運次第ですね。電気が来ていくらか水が出れば、すぐにシャワーのために温めて、浴室に運びます。家族のうち1~2人が浴びられればいいほうです。トイレだって電気が来たときに流すしかありません。食器を洗うこともままならないんです」

病気の夫は、夜は暑苦しく眠れず、夜明け近くに涼しくなってやっと浅い眠りにつく。

1日2~4時間の電気では屋上まで汲み上げる水量が限られ、50世帯が暮らすこのアパートの全家族には行き渡らないのだ。洗い物をする水、トイレやシャワーで使う水は電気が回復するときに供給されるわずかな水を貯めて少しずつ節約して使う他ない。シャワーは家族全員が一度に浴びることもできず、順番を決めて数日に一度が精一杯だ。トイレも十分に流せないし、食器洗いや洗濯もままならない。

「私たちは“生存している”けど、“生きている”状態ではないんです」と訴えるのは、3階で暮らす初老の男性だった。

「もう15日も水不足に苦しんでいます。以前はこのアパートも発電機を使っていましたが、15日前に壊れてしまった。修理する部品が外から持ち込めないんです。ひどい生活です。こんな生活より墓場の方がよほどいいですよ。食べ物はなんとかなります。しかし電気と水なしでは生活できません」

「自分の顔が猿に見えてきます。いつもイライラしています。洗面所に行っても、手も洗えない。人びとの精神状態はひどいものです。電気がなくて何もすることがないので、モスクでじっと座って時間を過ごします。これは“人間の生活”なんかじゃありませんよ!」
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