私もこの2年、仕事ができず、論文も書けなかった。モスル大学には教師、職員も含め、1万人が働いていましたが、今にいたって給料はおりていません。私も、まだ一銭も、もらっていません。

それでも私は大学再開のために、モスルへ戻るつもりです。大学の同僚にキリスト教徒がいます。以前は「解放されたら、自分の故郷だから家に帰る」と話していましたが、ISが去った後、「やはり家に戻るのは怖い」と言います。近隣に暮らしていた住民が、ISに対し、キリスト教徒の家がどこにあるのか情報を流していたのです。同僚は、ISに家や財産などすべて奪われました。彼は近隣住民をもう信じることはできないと言います。

キャンパス内は車で移動するほど広大だった。IS掃討戦の過程で、キャンパスも空爆被害を受け、校舎が破壊された。(2017年・IS系アマーク通信映像)
モスル奪還戦でIS拠点を狙った空爆では、戦闘員だけでなく、一般住民も巻き添えとなっている。他方、ISは脱出しようとする住民を「人間の盾」として使うなどした。戦闘のはざまで多数の市民が犠牲となった。(2017年・IS系アマーク通信映像)
IS統治下のモスル。町の中央をチグリス川が流れる。イスラム教徒のほか、キリスト教、ヤズディ教徒、そしてアラブ人、クルド人、トルコマンなど様々な宗教・民族が暮らしてきた。サアド氏はISが隣人関係を引き裂いたと話す。(2016年・IS映像)

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