クルディスタン独立の住民投票に一票を投じる住民。投票は大きな混乱もなく行われた。(アルビル・アンカワ地区で9月25日撮影・玉本英子)

 

イラクからの独立を問うクルド自治区での住民投票。25日、クルド自治区の首府アルビルのアンカワ地区の投票所の前では、人びとが朝から列を作っていた。この地区はアッシリア人などキリスト教徒が多い。クルド人だけでなく、キリスト教徒もクルディスタン独立に賛成を投じた人が目立った。だが一部には、イラク残留を望む見えざる声もあった。【アルビル・玉本英子/アジアプレス】

◆「もう中央政府は信用できない」とキリスト教徒

イラク北部のクルド自治区にはクルド人のほかに、キリスト教徒やアラブ人、トルコ系住民も暮らしてきた。フセイン政権後、混乱に乗じて武装組織が勢力を拡大すると、「キリスト教徒はアメリカの協力者」だとして攻撃対象となった。バグダッドでは教会が襲撃され多数の死者が出る事件も起きた。のちに台頭した武装組織イスラム国(IS)はモスルを制圧すると、キリスト教徒を追放、家や財産を没収した。さらに歴史的な教会や遺構を次々と破壊した。クルド独立賛成に投票したというフェイルーズ・シェルさん(48)は、「少数のキリスト教徒はずっと不安のなかで生きてきた。イラク政府は守ってくれなかったので信用できない。クルド独立には賛成」と話す。

アルビル市内で見かけたポスター。「クルディスタンはクルド人、トルコ系住民、キリスト教徒、アラブ人たちが暮らす地」とある。クルド人だけでなく、すべての住民のためのクルディスタンを強調している。(アルビル市内で9月25日撮影・玉本英子)

 

◆「独立で生活が苦しくなる」との懸念も

イラク政府は自治区での住民投票実施そのものに反対している。中央政府からすれば、クルド独立は国家分断を意味し、油田を抱えるキルクークを失うことにつながりかねない。このため以前から独立への動きを警戒し、自治区への財源割り当ての締め付けや、公務員の給与支払いを制限するなどしてきた。
クルド自治区では地元メディアが「独立賛成多数」と大きく伝えるが、イラク残留を望む住民も少なからずいる。
独立反対に投票したというキリスト教徒の公務員女性(47)は打ち明けた。
「中央政府の公務員は毎月給料が支払われているのに、自治区の公務員は1年半以上も35パーセント分しかもらっていない。財政や経済の見通しのないまま独立しても、生活は苦しくなるだけ」。
この女性は、独立賛成派のいやがらせを恐れ、職場でもこうした声を表に出すことはないという。

IS掃討作戦では、ともに団結する姿勢を見せた中央政府とクルド自治区だが、住民投票で「クルディスタン独立」が現実味を帯び始めたなか、両者の対立が先鋭化し始めている。【玉本英子】
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