◆イラク政府が「クルド独立」住民投票に対抗
9月25日、クルド自治区とその周辺地域で実施された、クルディスタン地域のイラクからの独立を問う住民投票は92パーセントが「独立支持」の結果となった。イラク中央政府は、住民投票は憲法違反として「29日18時までに国際空港の管轄権を渡さなければ国際線の運航を停止する」と発表。29日夕方以降、クルド自治区にあるアルビル、スレイマニア両空港での国際線の発着はストップした状態となっている。停止前、アルビル国際空港で利用者に聞いた。【アルビル・玉本英子/アジアプレス】
アルビル国際空港はイラク北部の主要空港。親戚訪問をするイラク人や、ヨーロッパなどに暮らす移民、国際支援団体の外国人職員やビジネスマンなどが利用する。国際線の運航が停止される直前、出発ロビーに60人ほどの利用者がいた。混乱はなかったものの、それぞれが不安を口にした。出国利用者の多くは、運航停止の情報を聞き、帰国を早めたという。
移民先のドイツ・ブレーメンから自治区の親戚のもとを家族で訪れていたクルド人男性、ファーヘル・カバンさん(27)は急遽帰国を決めたという。「運航停止と聞いて不安になり、家族分のチケットを買いなおした。当分自治区には来ないと思う」。
モスルから来たムハメッド・サーメルさん(19)はアルメニアの大学に留学予定でエレバン行きの飛行機を待っていた。国際線停止措置をニュースで知り、出国予定を1日早めたという。留学は5年間の予定だ。「イラクに残る家族が心配」と話した。
到着ゲートも混乱はなく、国外からの便には日本人の姿もあった。国際機関で活動する日本人女性は休暇を終え、アルビルに戻ったという。「飛行機の中も変わった様子はなく、普通に乗客もいた」と話す。通常通りの勤務と連絡を受けており、その指示に従っているという。
クルド自治区に滞在していた日本のNGO関係者ら在留邦人の一部は、すでに出国している。
一方、停止措置直前ながら国際線では出発便、到着便とも運休が出ていた。シリア難民としてクルド自治区に5年間暮らしたメイサ・ヌーハさん(47)と3人の子どもたちは、シリアに帰還するためダマスカスに向かう便に乗る予定だった。
ところが運休したため、乗ることができず、大きな荷物を抱えて途方に暮れていた。メイサさんはガソリンが値上がりするなど、生活が苦しくなったため、シリアへの帰還を考えていた。住民投票の結果が独立多数を占め、アラブ人のメイサさんは不安になり出国を決意したという。「ここに戻るつもりはなかったので、家のものを処分した。これからどうやって生活すればよいのか」とうなだれた。
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